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【専門家監修】ASD(自閉スペクトラム症)とは?特徴や原因・仕事の相談先を解説

「周りの人とのコミュニケーションがなぜかうまくいかない」「いつも頑張っているのに、空回りして誤解されやすい」「特定のルールや手順にこだわってしまい、周りから『わがまま』だと思われていないか不安」。もし、あなたがこのような悩みを抱えているなら、それはASD(自閉スペクトラム症)という発達障害の特性によるものかもしれません。ASDは、生まれつきの脳機能の偏りが原因で、決して本人の性格や努力不足、親の育て方の問題ではありません。しかし、その特性が周囲に理解されにくいために、生きづらさを感じている方が少なくありません。

この記事では、ASDの基本的な特徴や原因、診断について詳しく解説するとともに、仕事で直面しがちな具体的な困りごとへの対処法や、あなたを支える頼りになる支援機関を紹介します。ご自身の特性を「苦手なこと」としてだけでなく「強み」としても正しく理解し、自分らしく、そして安心して働ける道筋を見つけるための一歩として、ぜひお役立てください。

ASD(自閉スペクトラム症)とは?

ASD(自閉スペクトラム症)は、近年メディアなどで耳にする機会が増えた言葉ですが、具体的にどのような障害なのか、正確に理解している方はまだ少ないかもしれません。まずは、ASDの基本的な定義から見ていきましょう。

社会的なコミュニケーションの困難などを特徴とする発達障害の一つ

ASD(Autism Spectrum Disorder)は、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」などの特性が幼少期から見られる発達障害の一つです。「スペクトラム」とは、「連続体」を意味します。これは、障害の特性の現れ方やその強さが、虹の色のように明確な境界線がなく多様であり、一人ひとり大きく異なることを示しています。知的障害や言語の遅れを伴う人もいれば、知的レベルや言語能力が非常に高い人もいます。

なぜ大人になってから気づくのか?

ASDの特性は生まれつきのものですが、成人して社会に出てから、仕事や人間関係での困難さを強く感じるようになり、初めてASDと診断される場合も少なくありません。その理由として、学生時代までは比較的構造化された環境で過ごせますが、社会人になると「暗黙のルール」の理解や、臨機応変な対応、複雑な対人関係の構築など、より高度な社会的スキルが求められるようになるためです。また、周りに合わせようと無意識に自分を演じ(ソーシャルマスキング)、必死に努力してきた結果、社会人になってエネルギーが尽き、困難さが表面化するケースもあります。

自閉症やアスペルガー症候群との関係

以前は、ASDと関連する障害として、「自閉症」「アスペルガー症候群」など、複数の診断名が使われていました。しかし、2013年にアメリカ精神医学会が発行した診断基準『DSM-5』において、これらの障害は本質的に共通の特性を持つことから、「自閉スペクトラム症」という一つの診断名に統合されました。現在でも、会話の中で便宜的に「アスペルガー」という言葉が使われることがありますが、医学的にはすべてASD(自閉スペクトラム症)に含まれるという理解が一般的です。

ASD(自閉スペクトラム症)の主な特徴

ASDの特性の現れ方は人それぞれですが、中核となる特徴は共通しています。ここでは、代表的な特徴をより具体的に解説します。

対人関係・社会的コミュニケーションの困難

ASDのある方は、他者との相互的なコミュニケーションに、生まれつき困難さを抱えることがあります。これは悪気があるわけではなく、脳の特性によるものです。

  • 非言語的コミュニケーションの理解が苦手:相手の表情や視線、声のトーン、身振り手振りといった「言葉以外」の情報から、気持ちを読み取ることが難しい場合があります。
  • 言葉を文字通りに受け取る:「(皮肉で)君は本当に仕事が早いね」と言われて、褒められたと真に受けてしまったり、曖昧な表現を理解できなかったりします。
  • 暗黙のルールや場の空気が読めない:その場の雰囲気や、言葉にされない「常識」「暗黙の了解」を察することが苦手です。
  • 会話のキャッチボールが難しい:自分の興味があることについて、相手の関心や反応を考えずに一方的に話し続けてしまうことがあります。
  • 相手の立場に立つことの難しさ:他者の視点に立って物事を想像することが苦手な傾向があり、自分の発言が相手をどういう気持ちにさせるかを予測できず、意図せず傷つけてしまうことがあります。

限定された興味やこだわり・感覚の特性

もう一つの大きな特徴は、興味の対象が限定的であることや、特定の手順・ルールへの強いこだわりにあります。

  • 強いこだわりと変化への抵抗:物事をいつもと同じ手順で行うことや、物の配置などに強いこだわりを持ちます。急な仕事の依頼や予期せぬ予定変更が非常に苦手で、強いストレスを感じたり、パニックになったりすることがあります。
  • 限定された興味:特定の分野に対して、驚異的な集中力と記憶力を発揮します。
  • 感覚の特性(感覚過敏・感覚鈍麻):五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)が、多くの人よりも非常に敏感な「感覚過敏」や、逆に鈍感な「感覚鈍麻」が見られることがあります。
    • 視覚過敏:蛍光灯の光が眩しくて目が痛くなる、人の多い場所では情報量が多すぎて疲弊する。
    • 聴覚過敏:オフィスでのキーボードの音や電話の着信音などが全て同じ大きさで聞こえてしまい、仕事に集中できない。
    • 触覚過敏:特定の素材の衣服が着られない、人に軽く触れられるだけで痛みを感じる。
    • 嗅覚・味覚過敏:特定のにおいで気分が悪くなる、特定の食感のものしか食べられない(偏食)。
    • 感覚鈍麻:暑さや寒さ、痛みなどを感じにくく、体調の変化に気づきにくい。

併存症と二次障害について

ASDのある方は、他の発達障害や精神疾患を併せ持つ(併存する)ことが少なくありません。また、周囲との関わりの中で生まれる二次的な問題(二次障害)にも注意が必要です。

  • 併存しやすい障害(併存症):ADHD(注意欠如・多動症)や、SLD(限局性学習症)、睡眠障害、てんかんなどが挙げられます。
  • 二次障害:「なぜ自分だけうまくいかないんだろう」という経験の積み重ねや、周囲からの誤解や叱責により、自信を失い、自己肯定感が極端に低くなることがあります。その結果、うつ病や不安障害、適応障害、対人恐怖、引きこもりといった状態に陥ってしまうのです。二次障害の予防と早期対応が非常に重要ですし、早期に自己理解と環境調整をすることは、本人を苦しみから救うことにつながります。

ASD(自閉スペクトラム症)の原因と診断

ASDの原因について、誤った情報や偏見を持つことは、本人や家族を深く傷つけることにつながります。

原因は生まれつきの脳機能の偏り

ASDの原因は、親の育て方やしつけ、愛情不足などでは決してありません。これは医学的に明確に否定されています。生まれつきの脳機能の障害であると考えられており、多くの遺伝的な要因が複雑に絡み合って生じると推測されています。

ASDの診断方法と基準

ASDの診断は、精神科や心療内科などの専門医によって慎重に行われます。血液検査や脳の画像検査のように、客観的な数値で判断するものではありません。診断は、国際的な診断基準(DSM-5など)に基づき、以下の情報を総合的に評価して下されます。

  • 詳しい問診:本人や、子どもの頃の様子を知る家族から、発達の歴史や現在の困りごとなどを詳細に聞き取ります。
  • 行動観察:診察室での受け答えの様子やコミュニケーションの取り方などを専門家が観察します。
  • 心理検査・知能検査:必要に応じて、知能検査(WAISなど)や、ASDの特性の程度を評価するための心理検査が行われます。

診断を受けることで、自分を責めるのをやめ、生きづらさの原因が特性にあると客観的に理解できるようになります。そして、自分の得意・不得意に合わせた対策を考えたり、必要な支援を受けたりすることにつながります。

仕事や就職に関する困りごとと対処法

ASDの特性は、仕事の場面で多くの困難につながることが少なくありません。ここでは、具体的な困りごとと、その対処法について詳しく見ていきましょう。

ASDの特性による仕事での困りごと

困りごとのカテゴリ 具体的な状況の例
指示理解・業務遂行 ・「あれ、やっといて」「適当に」といった曖昧な指示では、何をすべきか分からず動けなくなる。
・複数の作業を同時に行うマルチタスクが極端に苦手で、パニックになる。
・マニュアルにない例外的な事態が起こると、どう対応して良いか分からなくなる。
コミュニケーション ・報告・連絡・相談をどのタイミングですべきか判断がつかない。
・会議で議論の流れについていけず、意見を求められても即座に答えられない。
・職場の雑談の輪に入れず、「付き合いが悪い」と誤解され孤立してしまう。
スケジュール・体調管理 ・優先順位をつけるのが苦手で、どの仕事から手をつければ良いか分からなくなる。
・仕事に集中しすぎて休憩を取るのを忘れ、気づいた時には疲れ果てている。
・体調の悪さやストレスに気づきにくく、ある日突然、出社できなくなってしまう。
職場環境 ・電話の着信音や人の話し声が気になって、自分の仕事に集中できない。
・オフィスの蛍光灯が眩しすぎたり、空調の風が直接当たったりすることが苦痛。
・同僚の香水や柔軟剤のにおいで気分が悪くなる。

 

職場での工夫や合理的配慮

これらの困りごとは、本人の努力だけで解決するのは非常に困難です。本人が行える自己管理の工夫と、職場に理解を求めて環境を調整する「合理的配慮」の両方が重要になります。

本人にできる工夫(セルフマネジメント)の例

    • ツールの活用:スマートフォンのアプリやタスク管理ツールを使い、やるべきことをリスト化して抜け漏れを防ぐ。
    • 視覚的な工夫:タイマーを使って時間を区切る、付箋やマーカーで情報の優先順位を視覚的に分かりやすくする。
    • 自分の「取扱説明書」の作成:自分の特性、得意なこと・苦手なこと、必要な配慮などを文章にまとめ、上司や同僚に伝えて理解を求める。
    • セルフケア:意識的に休憩時間を確保する、イヤーマフやサングラスを使って感覚への刺激を減らすなど、ストレスを溜めない工夫をする。

 

職場に求める合理的配慮の具体例

合理的配慮とは、障害のある人が他の人と平等に働けるよう、職場環境を調整することです。障害者雇用促進法により、企業には過重な負担にならない範囲で合理的配慮を提供する義務があります。

  • 指示の明確化・視覚化:「〇〇を、△△の目的で、□□の手順で、いつまでに」のように、5W1Hを明確に、箇条書きやメールで指示してもらう。
  • 環境調整:パーテーションで区切られた静かな席や、出入り口から遠い席にしてもらう。ノイズキャンセリングイヤホンの着用を許可してもらう。
  • 業務内容・スケジュールの調整:マルチタスクを避け、一つの業務に集中できるような仕事を割り振ってもらう。予定の変更は、可能な限り早く、視覚的な形で伝えてもらう。
  • 相談体制の整備:質問や相談をする相手(メンター)を一人に決めてもらう。定期的な1対1の面談の時間を設けてもらう。

ASDの特性が強みになる仕事の例

ASDの特性は、苦手なことであると同時に、素晴らしい「強み」にもなり得ます。環境や仕事内容が合えば、他の人にはない高いパフォーマンスを発揮することができます。

  • 限定された興味と探求心:「専門性」「探求心」として、特定の分野で深い知識やスキルを身につけることができます。
  • こだわりと正確性:「正確性」「真面目さ」「粘り強さ」として、ルールに基づいた作業や、細かなチェックが求められる業務で力を発揮します。
  • 高い集中力:「生産性」として、一度集中すると周りの雑音に惑わされず、黙々と作業に取り組むことができます。

このような強みが活かせる仕事として、データ入力・分析、品質管理・校正、プログラミング、研究開発、専門知識を活かしたライティング、伝統工芸の職人などが挙げられます。

仕事の悩みに関する相談先と支援サービス

仕事に関する悩みや困りごとは、一人で抱え込まずに専門の支援機関に相談することが、解決への近道です。

  • 発達障害者支援センター:発達障害に関する専門的な相談支援機関です。
  • 障害者就業・生活支援センター:「なかぽつ」とも呼ばれ、就職に関する相談から職場定着、生活面まで、一体的な支援を提供しています。
  • ハローワーク(専門援助部門):障害者手帳を持つ方を対象に、専門の職員が担当となり、きめ細やかな就職サポートを受けられます。
  • 就労移行支援事業所:一般企業への就職を目指す障害のある方が、原則2年間利用できる福祉サービスです。職業訓練や自己分析、職場実習など、就職に向けた包括的なサポートを提供します。
  • 就労継続支援事業所(A型・B型):現時点ですぐに一般企業で働くのが難しい方向けの福祉サービスです。A型は雇用契約を結び、B型は雇用契約を結ばずに自分のペースで働きます。

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