
発達障害とは?
「人とのコミュニケーションが、なぜかうまくいかない」「仕事で集中力が続かず、ミスを繰り返してしまう」「特定の物事に、周りが引くほど熱中してしまう」こうした日々の生活や仕事の中での「生きづらさ」を感じ、「自分の性格や努力が足りないせいだ」と、一人で悩み、自分を責めていませんか。その困難さの背景には、もしかしたら「発達障害」という、生まれつきの脳機能の特性が関係しているかもしれません。発達障害は、決して特別なものではなく、人口の数パーセントに存在すると言われています。その特性を正しく理解し、自分に合った環境や工夫を見つけることで、生きづらさを和らげ、自分の能力を最大限に発揮することが可能です。この記事では、発達障害の基本的な知識から、主な種類と特徴、診断、仕事のポイント、そして頼れる相談先まで、網羅的に分かりやすく解説していきます。
まず、発達障害がどのようなものなのか、その基本的な概念について理解を深めましょう。
生まれつきの脳機能の偏りによる特性
発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達の偏り(アンバランス)によって、幼児期から行動面や認知面に特性が現れる状態を指します。親の育て方や、本人の努力不足が原因で起こるものではありません。発達障害者支援法では、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。発達障害は「病気」というよりは、一人ひとりが持つ「個性」や「特性」に近いものです。その特性自体に良い・悪いはありませんが、その特性と、学校や職場といった周囲の環境とのミスマッチによって、社会生活を送る上で様々な困難が生じることがあります。
「大人の発達障害」が注目される理由
「発達障害は子どものもの」というイメージがあるかもしれませんが、近年、「大人の発達障害」という言葉をよく耳にするようになりました。これは、大人になってから新たに発達障害になる、という意味ではありません。発達障害の特性は生まれつき持っているものですが、子どもの頃は「少し変わった子」「落ち着きのない子」として、周囲のサポートなどによって何とか過ごせていたものが、大人になって社会に出てから、その困難さが顕著になるケースを指します。就職、結婚、昇進といったライフステージの変化に伴い、求められるスキル(自己管理能力、コミュニケーション能力、マルチタスク能力など)が複雑化することで、それまで隠れていた特性が表面化し、本人も周囲も「なぜ、うまくいかないのだろう?」と悩むことになるのです。
発達障害の種類と特徴
発達障害は、特性の現れ方によって、いくつかの種類に分類されます。ここでは、代表的な種類について解説します。これらの特性は、それぞれが独立している場合もあれば、複数を併せ持っている場合もあります。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASD(Autism Spectrum Disorder)は、主に以下の2つの特性によって定義されます。
対人関係やコミュニケーションの困難さ
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- 相手の表情や声のトーンから、気持ちを読み取るのが苦手
- 比喩や冗談、皮肉などを文字通りに受け取ってしまう
- 会話のキャッチボールが苦手で、一方的に話してしまうことがある
- 「暗黙の了解」や「場の空気」を読むのが難しい
限定された、こだわりや興味、反復的な行動
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- 特定のこと(電車、アニメ、歴史など)に非常に強い興味を持ち、驚異的な知識を持っていることがある
- 決まった手順やルールに強くこだわり、急な予定変更が苦手
- 光や音、匂い、肌触りといった感覚が、極端に敏感、または鈍感である(感覚過敏・感覚鈍麻)
ADHD(注意欠如多動症)
ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、脳の実行機能(計画を立てて物事を実行する、行動をコントロールする機能)の偏りが関係しているとされ、主に「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの特性が見られる状態です。
特性 | 主な特徴の例 |
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不注意 | ・ケアレスミスが多い ・忘れ物や、物をなくすことが多い ・話に集中できず、上の空になってしまう ・整理整頓や、計画を立てて物事を進めるのが苦手 |
多動性 | ・じっとしているのが苦手で、そわそわしてしまう ・貧乏ゆすりなど、常に体の一部を動かしている ・おしゃべりが止まらない |
衝動性 | ・相手の話が終わる前に、食い気味に話し始めてしまう ・順番を待つのが苦手 ・思いついたことを、後先考えずに行動に移してしまう |
大人になると、子どもの頃のような目に見える「多動性」は落ち着くことが多いですが、「不注意」や「衝動性」による困難は残りやすいと言われています。
LD・SLD(限局性学習症/学習障害)
LD・SLD(Specific Learning Disorder)は、全般的な知的発達に遅れはないにもかかわらず、「読む」「書く」「計算する」といった、特定の学習能力の習得や使用に著しい困難を示す状態です。
- 読字障害(ディスレクシア)
- 文字を読むのが非常に遅い、読み間違えが多い、文章を読んでも意味が頭に入ってこない。
- 書字障害(ディスグラフィア)
- 文字の形を思い出せない、鏡文字になる、作文が苦手。
- 算数障害(ディスカリキュリア)
- 数字や記号の理解が難しい、簡単な計算ができない、繰り上がり・繰り下がりで混乱する。
これらの困難は、本人の努力不足が原因ではないため、周囲の正しい理解と、学習方法の工夫が必要です。
困難は「個」と「環境」の相互作用で生まれる
発達障害による困難は、本人の「中」にだけ原因があるのではありません。本人が持つ特性と、周囲の「環境」とのミスマッチによって生じます。これを障害の「社会モデル」と言います。例えば、ASDの感覚過敏がある人にとって、多くの人が働く騒がしいオフィスは非常にストレスの大きい環境ですが、静かな個室であれば、高い集中力を発揮して仕事ができるかもしれません。つまり、本人が努力して変わることだけが解決策ではなく、環境を調整することで、困難を大きく軽減できるのです。
発達障害の診断について
「自分も発達障害かもしれない」と思ったら、どこに相談し、どのように診断が行われるのでしょうか。
発達障害は何科を受診するのか
大人の発達障害の診断を行っているのは、主に精神科や心療内科です。子どもの場合は、児童精神科や小児科が窓口となります。すべての精神科医が発達障害の診断を専門としているわけではないため、事前に病院のホームページなどで「大人の発達障害の診療を行っているか」を確認してから受診することが重要です。
発達障害の診断・検査
発達障害の診断は、医師による詳しい問診、行動観察、そして客観的な心理検査などを組み合わせて、総合的に行われます。特に、本人が生まれてから現在に至るまでの生育歴を詳しく聞き取ることが、診断において最も重要視されます。そのため、可能であれば、幼少期の様子をよく知る家族に同席してもらったり、母子健康手帳や小中学校の成績表を持参したりすると、診断の助けになります。
診断を受けるメリット
診断を受けることには、不安やためらいを感じるかもしれませんが、生きづらさの正体を知り、次の一歩を踏み出すための多くのメリットがあります。
- 自分の特性が客観的に分かり、自分を責めなくなる
- 周囲の人に、自分の苦手なことを具体的に説明しやすくなる
- 自分に合った対処法や工夫が見つかる
- 必要な福祉サービスや支援につながりやすくなる
診断は、あなたに「レッテル」を貼るものではなく、あなただけの「取扱説明書」を手に入れるための、前向きなプロセスです。
発達障害のグレーゾーンについて
発達障害の特性は持っているものの、診断基準を完全には満たさない状態を、一般的に「グレーゾーン」と呼びます。これは正式な医学用語ではありません。グレーゾーンの方は、診断がつかないために公的な支援を受けにくい一方で、日常生活では発達障害の特性による困難を抱えているという、複雑な状況に置かれがちです。しかし、診断名がなくても、自身の特性を理解し、それに合った工夫をすることは可能です。また、相談機関では、診断の有無にかかわらず相談に応じてくれます。
発達障害と仕事について
発達障害のある方が、その特性を活かし、無理なく働き続けるためのポイントを紹介します。
発達障害のある方が無理なく仕事を続けるポイント
- 自己理解を深める
- まずは、自分の得意なこと・苦手なこと、ストレスを感じる状況などを客観的に把握することが第一歩です。
- 環境を調整する
- 自分の特性に合った職場環境を選ぶ、あるいは現在の職場で配慮を求めることが重要です。例えば、「静かな場所で作業させてもらう」「指示は口頭ではなく、メールや文書でもらう」といった工夫が考えられます。
- ツールを活用する
- スケジュール管理アプリや、ノイズキャンセリングイヤホン、タスク管理ツールなど、自分の苦手な部分を補ってくれる道具を積極的に活用しましょう。
- 周囲に相談し、支援を求める
- 一人で抱え込まず、信頼できる上司や同僚、後述する支援機関などに相談し、協力を得ることが、安定して働き続けるための鍵となります。
仕事での工夫・成功事例
- ADHDのある方の事例
- Aさんは、ADHDの不注意特性から、事務職でケアレスミスや納期遅れを繰り返し、自信を失っていました。しかし、診断を機に、上司に相談。「電話応対など、急な割り込みが少ない業務に集中させてもらう」「作業手順をチェックリスト化する」「アラーム機能を活用して、タスクの締め切りを管理する」といった工夫を取り入れたところ、ミスが大幅に減り、安心して仕事に取り組めるようになりました。
- ASDのある方の事例
- 高い集中力と正確性を持つBさんは、データ入力や校正の仕事では評価される一方、職場の雑談が苦手で孤立感を深めていました。上司に相談し、「昼休みは一人で過ごす時間を確保する」「報告・連絡・相談はチャットツールを基本にする」といった配慮を得たことで、不要なストレスなく、得意な業務で能力を発揮できるようになりました。
障害を非開示(クローズ)で働く場合のポイント
様々な理由から、職場に障害を伝えない「クローズ就労」を選ぶ方もいます。その場合は、公的な配慮を求めることは難しくなるため、より一層のセルフケアと、自分に合った職選びが重要になります。
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- 自分の特性に合った職種(例:対人折衝が少ない、自分のペースで進められる仕事)を選ぶ。
- ストレス管理や体調管理を徹底する。
- 困ったときに相談できる、職場外の支援者やコミュニティを見つけておく。
発達障害に関する相談先・就職支援
発達障害に関する悩みや仕事のことは、専門の支援機関に相談することができます。
支援機関の名称 | 主な役割と特徴 |
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発達障害者支援センター | 各都道府県・指定都市に設置。発達障害に関する総合的な相談窓口。本人・家族からのあらゆる相談に応じ、適切な情報提供や機関紹介を行う。 |
障害者就業・生活支援センター | 就職の相談と、生活面の相談を一体的にサポートしてくれる身近な機関。 |
地域障害者職業センター | より専門的な職業評価や、職業準備支援、ジョブコーチ支援などを受けられる。 |
ハローワーク(専門援助窓口) | 障害のある方のための専門窓口があり、求人紹介や就職相談に応じてくれる。 |
就労移行支援 | 一般企業への就職を目指すための、最長2年間の通所型トレーニングサービス。職業スキル、自己管理、就職活動、定着支援までトータルでサポート。 |
発達障害と診断されたら就労継続支援B型事業所オリーブへ
診断を受けて自分の特性が分かり、様々な支援機関があることも理解した。しかし、「すぐに一般企業や、就職を目指す就労移行支援に通うのは、まだハードルが高い」「まずは、安心して通える場所で、社会参加への第一歩を踏み出したい」…そう感じている方も多いのではないでしょうか。そんなあなたに、私たち就労継続支援B型事業所オリーブという選択肢があります。
オリーブは、大阪、兵庫、京都、奈良の関西エリアで、発達障害などの特性を持つ方が、ご自身のペースを大切にしながら、働くための準備ができる場所です。雇用契約を結ばないB型事業所なので、週に1日、1日1時間といったごく短い時間からスタートし、体調や目標に合わせて無理なくステップアップしていくことが可能です。
- ASDの特性を持つ方へ
- 静かで、自分のペースで集中できる作業環境や、曖昧な指示ではなく、具体的で分かりやすい作業マニュアルを用意しています。
- ADHDの特性を持つ方へ
- 短時間で完了する多様な作業があり、気分転換しながら取り組めます。スケジュール管理やタスク管理の工夫も、スタッフと一緒に考えていきます。
オリーブは、働くことを通じて生活リズムを整え、自信を取り戻し、あなたらしい次のステップを見つけるための「安心できる居場所」です。まずはお気軽に、オリーブへ見学・ご相談ください。