ADHD(注意欠如・多動症) お役立ち情報 各種支援センター(障害者就業・生活支援センター、地域活動支援センターなど)
ADHDの時間管理術 スケジュールやタスク管理のコツを特性別に解説

ADHD(注意欠如多動症)の特性と時間管理の難しさ
「約束の時間にいつもギリギリか、遅刻してしまう」「仕事の締め切りを守れないことが多い」「やることが多すぎて、何から手をつければ良いか分からない」。もし、このような時間管理の悩みで日常生活や仕事に支障が出ているなら、それはADHD(注意欠如多動症)の特性が原因かもしれません。何度スケジュールを立てても、その通りに実行できたためしがない…。「時間」という、目に見えない敵と戦っているような感覚に、疲れ果てていませんか?時間管理が苦手なのは、決してあなたが「だらしない」からではありません。ADHDの脳機能の特性により、時間の感覚を掴んだり、物事を順序立てて考えたりすることが、そもそも難しいのです。この記事では、ADHDの特性がなぜ時間管理の困難さにつながるのかを深く掘り下げて解説し、今日からすぐに実践できるスケジュール管理やタスク整理の具体的なコツを、悩みのタイプ別に紹介します。ご自身の特性を理解し、あなたに合った工夫を取り入れることで、時間を味方につけ、よりスムーズな毎日を送りましょう。
ADHDの方が時間管理に困難を抱えやすいのは、その特性と深く関わっています。
ADHDの主な特性(不注意・多動性・衝動性)
ADHD(注意欠如多動症)は、生まれつきの脳機能の偏りによる発達障害で、主に以下の3つの特性が挙げられます。
- 不注意
- 集中力が続かず、注意が逸れやすい。忘れ物やケアレスミスが多い。物事を順序立てて考えるのが苦手。
- 多動性
- じっとしているのが苦手で、そわそわと体を動かしてしまう。おしゃべりが止まらない。
- 衝動性
- 思いついたことをすぐに行動に移してしまう。順番を待ったり、感情をコントロールしたりするのが苦手。
これらの特性の現れ方は人それぞれですが、いずれも時間管理の困難さに直結する要素を含んでいます。
時間管理が苦手になる4つの理由
ADHDの特性は、具体的にどのように時間管理の苦手さにつながるのでしょうか。その背景には、脳の機能的な特徴が関係しています。
理由1:物事の整理や優先順位付けが苦手(実行機能の課題)
ADHDのある方は、複数の情報やタスクを頭の中で整理し、何が重要で、何を先にやるべきかを判断する「実行機能」に弱さを抱えている場合があります。そのため、多くの仕事を抱えると、どれも同じくらい重要に見えてしまい、パニックになって動けなくなってしまうことがあります。あるいは、緊急ではないけれど自分が好きな仕事から手をつけてしまい、本当に重要な仕事が後回しになってしまう、ということも起こります。
理由2:タスクやスケジュールを忘れてしまう(ワーキングメモリの課題)
「不注意」の特性により、そもそもやるべきタスクや約束の存在自体を忘れてしまうことがあります。これは記憶力が悪いというよりも、他の刺激に注意が逸れた瞬間に、頭の中の「ワーキングメモリ(作業記憶)」という短期的な記憶を保持する領域から、その情報が抜け落ちてしまう、というイメージです。「自分の記憶力を信じない」ことを前提に対策を立てる必要があります。
理由3:物事を先送りにする傾向がある(報酬系の特性)
ADHDの脳は、目の前の小さな楽しみや刺激(報酬)を、将来の大きな報酬よりも優先してしまう「時間割引」という傾向が強いと言われています。そのため、退屈だけど重要な仕事よりも、ついスマートフォンを見てしまったり、興味のある別の作業を始めてしまったりと、「先延ばし」が起こりやすくなります。「後でやればいい」と思っていても、その「後で」がいつまでも来ない、という事態に陥りがちです。
理由4:「時間感覚」の特性と時間の見通しの難しさ
ADHDのある方は、「今」という瞬間を強く意識する一方で、過去や未来といった時間軸の感覚を掴むのが苦手な傾向があります。これを「時間盲(タイムブラインドネス)」と表現することもあります。そのため、「あと30分」がどれくらいの長さなのか、この作業にどれくらいの時間がかかるのか、といった時間の見通しを立てることが非常に困難です。これが、計画性の欠如や遅刻の根本的な原因の一つとなっています。
【悩み別】ADHDの時間管理・タスク管理の対処法
ADHDの特性を理解した上で、具体的な工夫を取り入れてみましょう。ここでは、代表的な悩み別に、今日からできる対処法を詳しく紹介します。
悩み1:スケジュール管理ができない
対策:ツール活用と「見える化」で記憶を外部化する
全ての予定を一つのツールに集約する
手帳、スマートフォンのカレンダー、PCのスケジュールソフトなど、複数のツールを併用すると、どこに何を書いたか分からなくなり、予定忘れの原因になります。スケジュールを管理する場所は、自分が最も使いやすく、常に見返すもの一つに絞り、「ここを見れば全て分かる」という状態を作りましょう。
デジタルツールでリマインダーを徹底活用する
Googleカレンダーなどのデジタルツールは、予定の通知(リマインド)機能があるため非常に有効です。会議や通院、ゴミ出しの日まで、全ての予定を登録し、「予定の1日前」「1時間前」「15分前」など、複数のタイミングでリマインドを設定すると、忘れるリスクをさらに減らせます。
予定を視覚的に分かりやすくする(可視化)
スケジュールは文字だけでなく、色分けをしたり、イラストを使ったりして、視覚的にパッと見て分かるように工夫しましょう。例えば、仕事は青、プライベートは緑、通院は赤のように、カテゴリーごとに色分けすると、予定のバランスも把握しやすくなります。
「バッファ時間」を必ず設ける
ADHDのある方は、作業にかかる時間を楽観的に見積もりすぎる傾向があります。移動時間や準備時間も含め、全ての予定に十分な「バッファ(緩衝)時間」を設けましょう。「この作業は1時間で終わるだろう」と思ったら、スケジュール上は1時間半や2時間を確保するなど、常に余裕を持った計画を立てることが、結果的に計画通りに進めるコツです。
悩み2:タスクの優先順位がわからない
対策:リスト化と細分化で「今やること」を明確にする
やるべきことを全て書き出す(リスト化)
頭の中だけでタスクを管理しようとすると、必ず抜け漏れが生じます。まずは、「やること」を大きさに関わらず、全て紙やアプリに書き出してみましょう。これにより、頭の中が整理され、自分が抱えている仕事量を客観的に把握できます。
タスクを小さなステップに分解する(細分化)
「企画書を作成する」といった大きなタスクは、どこから手をつけて良いか分からず、先延ばしの原因になります。そこで、一つひとつが具体的で、短時間で完了できるレベルまでタスクを分解(チャンクダウン)しましょう。
悪い例:企画書を作成する
良い例:
- 企画の目的を1行で書く(5分)
- 関連資料AとBを読む(30分)
- 構成案を3つの見出しで考える(15分)
- 見出し1について、3つのポイントを書き出す(20分)…
重要度と緊急度で優先順位をつける
書き出したタスクを、「重要度」と「緊急度」の2つの軸で4つの領域に分類し、優先順位を決める方法(アイゼンハワー・マトリクス)が有効です。
- 重要かつ緊急なこと
- 最優先で取り組む
- 重要だが緊急でないこと
- いつやるか計画を立てる
- 重要でないが緊急なこと
- 誰かに頼むか、短時間で終わらせる
- 重要でも緊急でもないこと
- やらない、または後回しにする
悩み3:集中しすぎてしまう(過集中)
対策:アラームやタイマーで強制的に中断する
ADHDの特性には、注意散漫とは逆に、一つのことに集中しすぎてしまう「過集中」もあります。過集中は、高いパフォーマンスを発揮できる一方で、休憩や食事を忘れたり、他の予定をすっぽかしたりする原因にもなります。
- ポモドーロ・テクニックを試す
- 「25分集中して作業し、5分休憩する」というサイクルを繰り返す時間管理術です。タイマーを使うことで、強制的に休憩を挟むことができ、過集中を防ぎます。
- 作業ごとにアラームを設定する
- 「10時から資料作成、11時からメール返信」のように、タスクごとに開始と終了のアラームを設定するのも有効です。
悩み4:遅刻が多い
対策:準備の習慣化と時間設定の工夫
- 前日の夜に準備を完了させる
- 朝は、判断力や注意力が低下しがちです。着ていく服や、カバンに入れる持ち物など、朝にやるべき準備は、可能な限り前日の夜に済ませておきましょう。
- 全ての行動に「かかる時間」を多めに見積もる
- 時間の経過を実際よりも短く感じてしまう特性があるため、移動時間や準備にかかる時間を、自分の感覚よりも1.5倍〜2倍程度、多めに見積もりましょう。
- 家を出る時間にもアラームを設定する
- 「起きる時間」だけでなく、「家を出る時間」にもアラームを設定し、強制的に行動を切り替えるきっかけを作りましょう。
悩み5:「やる気」が出ない・始められない
対策:「最初の小さな一歩」をデザインする
- 2分ルール
- 「2分以内で終わるタスクは、見つけたらすぐにやる」というルールです。メールの簡単な返信、ゴミ出しなど、すぐに終わらせることで、タスクが溜まるのを防ぎ、達成感も得られます。
- 環境トリガー
- 行動のきっかけとなる「トリガー(引き金)」を環境に仕込みます。例えば、朝にランニングをしたいなら、枕元にランニングウェアを置いて寝る。最初の「ひと手間」をなくすことで、行動へのハードルを劇的に下げることができます。
一人で難しいときは専門家のサポートを
セルフケアだけでは改善が難しい場合や、仕事に大きな支障が出ている場合は、専門の支援機関に相談することが重要です。
- 発達障害者支援センター
- 発達障害に関する専門的な相談支援機関です。日常生活の悩みから就労に関することまで、本人や家族からの相談に応じ、必要な情報提供や、医療・福祉・労働などの関係機関への紹介を行います。
- 障害者就業・生活支援センター
- 「なかぽつ」とも呼ばれ、就職に関する相談から職場定着、金銭管理や健康管理といった生活面まで、一体的な支援を提供しています。
- 医療機関(精神科・心療内科)
- 診断や、薬物療法、カウンセリング(認知行動療法など)を受けることができます。時間管理の困難さが、他の精神的な不調から来ていないかを見極めるためにも、専門医への相談は有効です。
自分に合った時間管理を身につけるなら 就労継続支援B型事業所オリーブへ
ここまで様々な時間管理術を紹介してきましたが、自分一人でこれらを習慣化するのは、簡単なことではありません。特に、失敗体験が続いて自信を失っている場合は、まず安心できる環境で、少しずつ成功体験を積み重ねることが大切です。就労継続支援B型事業所オリーブでは、ADHDなどの発達障害の特性を持つ方が、それぞれのペースを大切にしながら、働く練習をしています。雇用契約を結ばないため、厳しい納期や時間に追われるプレッシャーがありません。
オリーブでは、一日の始まりにスタッフと一緒にその日のスケジュールとタスクを確認し、作業の合間には休憩を促す声かけがあります。このように、外部からのサポートを受けながら、自分に合った時間管理の方法や、無理のない一日のスケジュールの立て方を考え、実践していくことができます。「時間を守れた」「今日やるべきことが全て終わった」という小さな達成感を日々感じることで、失われた自信を取り戻し、自分らしい働き方を見つけるための一歩を踏み出すことができます。時間管理に悩んでいる方は、ぜひ一度、お近くのオリーブへご相談ください。