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広汎性発達障害(PDD)とは?ASDとの関係や症状・仕事での支援を解説

広汎性発達障害(PDD)とASD(自閉スペクトラム症)の関係
「自分は広汎性発達障害(PDD)と診断されたけれど、最近よく聞くASDとは違うの?」「仕事でうまくいかないことがあるのは、この特性と関係があるのだろうか?」そのような疑問や悩みを抱えている方はいらっしゃいませんか。発達障害に関する情報は増えてきましたが、診断名の変遷などもあり、混乱してしまうことも少なくありません。特に、仕事の場面では、その特性が誤解されたり、自分でもどう対処すれば良いか分からず、困難を感じたりすることがあります。この記事では、まず「広汎性発達障害(PDD)」と「ASD(自閉スペクトラム症)」の関係性をひも解き、その上で、主な症状や特性、仕事で必要となる支援や工夫について、分かりやすく解説していきます。ご自身の特性を正しく理解し、あなたらしく能力を発揮できる働き方を見つけるための、第一歩としてお役立てください。
まず、多くの方が疑問に思う「広汎性発達障害(PDD)」と「ASD(自閉スペクトラム症)」という2つの言葉の関係について、明確に整理しておきましょう。
広汎性発達障害はASD(自閉スペクトラム症)の古い呼び方
結論から言うと、広汎性発達障害(PDD)は、現在使われているASD(自閉スペクトラム症)という診断名の、古い呼び方・分類の仕方です。これは、精神疾患の国際的な診断基準が変更されたことによります。以前、医療現場で広く使われていたアメリカ精神医学会の診断基準「DSM-IV(第4版)」では、「広汎性発達障害」という大きなカテゴリの中に、以下のような下位分類が存在しました。
- 自閉性障害
- アスペルガー症候群
- 特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)
- 小児期崩壊性障害
- レット症候群
しかし、2013年に改訂された「DSM-5(第5版)」では、これらの下位分類が一つに統合され、「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)」という診断名にまとめられました。「スペクトラム」とは「連続体」を意味し、これらの特性には明確な境界線を引くことが難しく、一つの大きなスペクトラム(連続体)として捉える方が実態に即している、という考え方に基づいています。現在、日本の医療現場でもこのDSM-5や、同様の考え方をとる世界保健機関(WHO)の「ICD-11」が主流となっており、新規に診断される場合は「ASD(自閉スペクトラム症)」と診断されるのが一般的です。
現在でも診断名として使われることがある理由
では、なぜ今でも「広汎性発達障害(PDD)」という言葉が使われるのでしょうか。それには、いくつかの理由があります。
- 診断基準の変更前に診断された方
- DSM-5が導入される2013年より前に診断を受けた方は、診断書などに「広汎性発達障害」や「アスペルガー症候群」といった、当時の診断名が記載されたままになっています。一度受けた診断名が変わるわけではないため、ご自身の障害を説明する際に、そのまま使う方が多いのです。
- 医師や支援者の慣れ
- 長年、DSM-IVの分類に慣れ親しんだ医師や支援者の中には、説明の分かりやすさなどから、現在でも慣習的に「広汎性発達障害」という言葉を使うことがあります。
- 公的文書などでの使用
- 行政の文書や一部の制度において、過去の経緯から「広汎性発達障害」という表記が残っている場合があります。
このように、呼び方が複数存在することで混乱が生じやすいですが、現在「広汎性発達障害」と呼ばれているものは、基本的には「ASD(自閉スペクトラム症)」と同じ特性を指していると理解しておけば問題ありません。
広汎性発達障害(PDD)の主な症状・特性
それでは、広汎性発達障害(ASD)には、どのような特性が見られるのでしょうか。その現れ方は一人ひとり異なり、非常に多様ですが、主に「対人関係・コミュニケーション」と「限定された興味・こだわり」という2つの領域で特性が見られます。
対人関係や社会的コミュニケーションの困難
他人との関わり方や、言葉や表情を使ったコミュニケーションに、生まれつきの困難さを抱えることがあります。これは、本人の性格や意欲の問題ではありません。
- 非言語的コミュニケーションの困難
- 相手の表情や声のトーン、身振り手振りから、その人の感情や意図を読み取ることが苦手な場合があります。そのため、場の空気を読むことや、相手の気持ちに合わせた対応が難しく感じられます。
- 言葉の文字通りの解釈
- 冗談や皮肉、比喩表現などを文字通りに受け取ってしまい、真に受けてしまったり、混乱したりすることがあります。
- 相互的なやりとりの困難
- 自分が関心のあることについては一方的に話し続けてしまう一方で、相手の話に興味を持って質問を返したり、会話のキャッチボールを続けたりすることが苦手な場合があります。
- 雑談の苦手さ
- 目的の決まっていない、いわゆる「雑談」や「世間話」にどう参加すれば良いか分からず、苦痛に感じることがあります。
限定された興味やこだわり
興味の対象が特定の分野に強く限定されたり、物事のやり方や手順に強いこだわりを持ったりする傾向があります。
- 限定的な興味・関心
- 特定の分野(例:電車、歴史、アニメ、数字など)に対して、非常に深く、膨大な知識を持っていることがあります。その一方で、興味のないことには関心を示しにくい場合があります。
- 同一性へのこだわり・変化への抵抗
- 毎日の通勤ルートや仕事の手順、物の配置など、決まったパターンやルールを好みます。急な予定変更や、やり方の変更を求められると、強い不安やストレスを感じ、混乱してしまうことがあります。
- 感覚の過敏さまたは鈍感さ
- 特定の感覚が、他の人よりも非常に敏感、あるいは鈍感な場合があります。例えば、オフィスの蛍光灯が眩しすぎる、パソコンのファンの音が気になって集中できない、特定の衣服の肌触りが我慢できない、といった感覚過敏が見られることがあります。
これらの特性は、時に「わがまま」「空気が読めない」「融通が利かない」と誤解されがちですが、本人の意思でコントロールすることが難しい、生まれつきの脳機能の特性なのです。
広汎性発達障害(PDD)の原因と診断
広汎性発達障害(ASD)は、どのようにして診断され、その原因は何なのでしょうか。正しい知識は、不要な誤解や偏見を防ぐ助けとなります。
原因は生まれつきの脳機能の障害
現在の医学では、広汎性発達障害(ASD)の原因は、生まれつきの脳機能の何らかの偏りや不具合によるものと考えられています。遺伝的な要因が複雑に関与していると推測されていますが、具体的なメカニズムはまだ完全には解明されていません。ここで非常に重要なのは、親の育て方や、愛情不足、本人の努力不足などが原因ではないということです。「しつけが悪かったから」「本人のやる気がないから」といった、誤った認識は、ご本人やご家族を深く傷つけることになります。これは、本人のせいでは決してない、脳の「特性」なのです。
診断の際に用いられる基準
広汎性発達障害(ASD)の診断は、血液検査や画像検査のように、数値で明確に判断できるものではありません。専門の医師(主に精神科医や小児科医)が、国際的な診断基準である「DSM-5」や「ICD-11」に基づいて、以下のような情報を統合して、慎重に診断を下します。
- 本人との面接
- 現在の困りごとや、日常生活の様子、興味関心などについて詳しく話を聞きます。
- 生育歴の確認
- 幼少期から今に至るまでの発達の様子について、本人や家族から詳しく聞き取ります。母子手帳や学校の通知表なども参考になります。
- 行動観察
- 面接中の様子や、人との関わり方などを観察します。
- 心理検査
- 必要に応じて、知能検査や発達特性を評価するための心理検査を行うこともあります。
これらの情報を多角的に集め、診断基準に合致するかどうかを総合的に判断します。
仕事で必要な理解と支援
広汎性発達障害(ASD)の特性は、仕事の場面で強みとして発揮されることも多い反面、困難の原因となることもあります。ここでは、安心して能力を発揮するために、職場でできる工夫や求められる支援について解説します。
周囲の理解や協力を得て働きやすい環境を整える
感覚の過敏さや、変化への不安を軽減するためには、物理的な環境を調整することが有効です。周囲の理解を得ながら、以下のような配慮を相談してみましょう。
- 静かな環境の確保
- 電話の音や人の往来が少ない、比較的静かな座席に配置してもらう。
- 刺激の調整
- パーテーションで視界を区切ったり、業務に集中する際にノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可してもらったりする。
- スケジュールの共有
- 急な予定変更を避け、可能な限り事前にスケジュールを共有してもらう。
具体的な指示や視覚的なサポートを依頼する
あいまいな指示による混乱を防ぐためには、コミュニケーションのルールを明確にすることが重要です。上司や同僚に、以下のような具体的なサポートを依頼してみましょう。
- 指示の具体化
- 「なるべく早く」ではなく「〇日の〇時まで」のように、5W1Hを明確にした指示をもらう。
- 指示の視覚化
- 口頭での指示に加えて、メールやチャット、メモなど、文字で見える形で指示を補足してもらう。
- マニュアルやチェックリストの活用
- 業務の手順を明記したマニュアルを作成してもらったり、作業の抜け漏れを防ぐためのチェックリストを用意してもらったりする。
過集中にならないための工夫
一つの作業に没頭しすぎてしまう特性をコントロールするためには、時間管理の工夫が役立ちます。
- タイマーの活用
- 「この作業は50分まで」とタイマーをセットし、アラームが鳴ったら一度手を止めて、次の業務を確認する習慣をつける。
- タスクの細分化とスケジュール化
- 1日の業務を細かなタスクに分解し、時間割のようにスケジュールに落とし込む。「〇時〜〇時はAの作業、〇時〜〇時はBの作業」と決めておくことで、切り替えがしやすくなる。
- 定期的な進捗報告
- 上司と相談し、「1時間に1回、進捗を簡単に報告する」などのルールを決める。これにより、優先順位のズレを防ぎ、業務のバランスを保つことができます。
相談しやすい体制づくりとコミュニケーションの工夫
「誰に、いつ、どのように相談すれば良いか分からない」という悩みも、広汎性発達障害(ASD)のある方が抱えやすい困難の一つです。報告・連絡・相談のルールを明確にすることで、心理的な安全性を高めることができます。
- メンター(相談役)を決める
- 質問や相談をする相手を特定の一人(例えば教育担当の上司や先輩)に決めてもらうことで、「誰に聞けばいいんだろう」という迷いをなくします。
- 定期的な面談の機会を設ける
- 週に一度など、1対1で落ち着いて話せる時間を定期的に設けてもらうことで、業務の進捗確認や、小さな困りごとを抱え込む前に相談する習慣ができます。
- コミュニケーションツールの活用
- 雑談が苦手な場合でも、チャットツールなどテキストベースのやり取りであれば、自分のペースで考えて返信できるため、コミュニケーションが円滑になることがあります。
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ここまで、広汎性発達障害(ASD)の特性と、仕事における工夫について解説してきました。これらの工夫や配慮によって、一般企業で能力を発揮している方はたくさんいます。しかし一方で、「一般企業のペースや環境に合わせること自体が、大きなストレスになる」「もっと自分の特性が強みとして活かせる場所で、無理なく働きたい」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。もしあなたが、ご自身のペースを何よりも大切にしながら、安心して働ける場所をお探しなら、就労継続支援B型事業所オリーブという選択肢があります。
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