ADHD(注意欠如多動症)とは?症状や特徴・今日からできる対処法を解説

ADHD(注意欠如多動症)とは?
「うっかりミスが多い」「大事な約束を忘れてしまう」「じっとしているのが苦手で、そわそわする」。もし、このようなことで日常生活や仕事に支障が出て悩んでいるなら、それはADHD(注意欠如多動症)という発達障害の特性が原因かもしれません。努力しているのに、なぜかうまくいかない。その理由が分からず、周りから「不真面目だ」「落ち着きがない」と誤解され、一人で悩み、自分を責め続けていませんか。ADHDは、本人の性格や努力不足が原因ではなく、生まれつきの脳機能の偏りによるものです。この記事では、ADHDの主な症状や特徴、そして今日からすぐに実践できる具体的な対処法について、深く掘り下げて解説します。ご自身の特性を正しく理解し、適切な工夫をすることで、困りごとを減らし、自分らしく生きていくためのヒントを見つけてください。
不注意・多動性・衝動性を主な特徴とする発達障害
ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、日本語では「注意欠如・多動症」と訳され、「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの特性を主な特徴とする、生まれつきの発達障害の一つです。これらの特性は、脳の前頭前野という部分における、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の機能に偏りがあることが原因と考えられています。そのため、本人のやる気や努力、あるいは家庭環境やしつけだけで、これらの特性を完全にコントロールすることは困難です。年齢や発達の水準に見合わない不注意さや落ち着きのなさが、日常生活や社会生活の様々な場面で困難を引き起こします。
ADHDの3つのタイプ
ADHDの特性の現れ方は人によって異なり、主に以下の3つのタイプに分類されます。
- 不注意優勢型
- 「不注意」の特性が特に目立つタイプです。かつてADD(注意欠陥障害)と呼ばれていたものがこれに当たります。「忘れ物が多い」「集中力が続かない」といった困難が主で、多動性・衝動性はあまり見られません。女性に比較的多いとされています。
- 多動性・衝動性優勢型
- 「多動性(じっとしていられないなど)」や「衝動性(思ったことをすぐ口にするなど)」の特性が強く現れます。そわそわして落ち着かない、順番を待てないといった行動が特徴的です。
- 混合表現型
- 「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの特性を、いずれも同じくらい併せ持っているタイプです。
大人になってから気づかれる「大人のADHD」
ADHDの特性は、医学的な診断基準上、12歳以前の幼少期から認められます。しかし、子どもの頃は「活発な子」「おっちょこちょい」といった個性として見過ごされ、本人も周囲も障害とは気づかないケースが少なくありません。ところが、進学や就職、結婚などを経て、大人としてより多くの責任や複雑なタスク管理を求められるようになると、特性による困難さが顕在化します。自己管理の難しさや対人関係のトラブルなどが表面化し、「なぜ自分だけうまくいかないんだろう」という強い生きづらさを感じ、初めて医療機関を受診してADHDと診断されることが多くあります。これを一般的に「大人のADHD」と呼びます。
ADHDの主な症状・特徴(大人に見られる具体例)
ADHDの3つの大きな特徴である「不注意」「多動性」「衝動性」は、大人の場合、具体的にどのような症状や行動として現れるのでしょうか。
不注意(集中力が続かない・忘れっぽいなど)
「不注意」とは、集中力を維持したり、物事の段取りを立てたり、注意を適切に切り替えたりすることが難しい状態を指します。
- ケアレスミスが多い
- 書類の誤字脱字や計算間違いなど、細部への注意が散漫になりがちで、簡単なミスを繰り返してしまいます。これにより、職場で「仕事が雑だ」と評価され、自信を失うことがあります。
- 忘れ物・なくし物が多い
- 鍵や財布、スマートフォンなどをどこに置いたか頻繁に忘れ、常に探し物をしている状態になりがちです。仕事で使う道具や書類を置き忘れたり、大切な約束や記念日を忘れたりして、人間関係に支障をきたすこともあります。
- 集中力が続かない
- 会議中や人と話している最中でも、他の物音や考え事に気を取られてしまい、話の内容が頭に入ってきません。興味のない作業や単純作業を続けるのが苦痛で、つい先延ばしにしてしまいます。
- 計画や整理整頓が苦手
- 複数の仕事を抱えた時に、優先順位をつけられず何から手をつければ良いか分からなくなります。また、タスクの全体像を把握したり、時間配分を考えたりすることが苦手なため、締め切り直前で慌てることも少なくありません。机の上や部屋の整理整頓も苦手な傾向があります。
多動性(じっとしていられない・落ち着きがないなど)
「多動性」とは、状況にそぐわない動きや、内面的な落ち着きのなさが目立つ状態を指します。大人の場合、子どものように走り回ることは稀ですが、以下のような形で現れます。
- じっとしていられない
- 会議中や映画館など、静かに座っているべき場面で、貧乏ゆすりをしたり、そわそわと体を動かしたり、ペンを回し続けたりしてしまいます。
- 内的な落ち着かなさ
- 常に頭の中で様々な考えが駆け巡っており、リラックスすることが苦手です。休日でのんびり過ごすことができず、次から次へと予定を詰め込んでしまう傾向があります。
- 過度なおしゃべり
- 相手の反応をあまり考慮せず、一方的に話し続けてしまうことがあります。頭に浮かんだことをどんどん口に出してしまうため、話が脱線しやすいのも特徴です。
衝動性(思いつくと行動してしまう・待つのが苦手など)
「衝動性」とは、行動を抑制したり、自分の感情をコントロールしたりすることが難しい状態を指します。
- 思ったことをすぐ口にする
- 相手が話している途中でも、遮って話し始めたり、TPOを考えずに思ったままの発言をしてしまったりします。悪気はないものの、相手を傷つけたり、失礼な印象を与えたりすることがあります。
- 順番が待てない
- レジの列に並んだり、会話の順番を待ったりすることが苦手で、イライラしてしまいます。
- 衝動的な行動
- 将来的な結果を深く考えずに、その場の感情や欲求で行動してしまうことがあります。例えば、衝動的に高額な商品を購入する(衝動買い)、急に仕事を辞める、人間関係を突然断ち切る、などです。
- 感情のコントロールが苦手
- 些細なことでカッとなったり、感情の起伏が激しかったりします。自分の思い通りにならないと、急に不機嫌になることもあります。
うつ病などの二次障害と併存症
ADHDの特性は、周囲からの無理解によって「だらしない」「やる気がない」「わざとやっている」と誤解され、叱責され続ける原因となりがちです。こうした否定的な経験が長期にわたって積み重なると、本人は「自分は何をやってもダメな人間だ」と思い込み、自己肯定感が著しく低下します。その結果、もともとのADHDの特性に加えて、うつ病や不安障害、適応障害、依存症(アルコール、ギャンブルなど)といった、別の精神疾患を発症してしまうことがあります。これを「二次障害」と呼びます。また、ADHDはASD(自閉スペクトラム症)や学習障害(LD)、チック症など、他の発達障害を併せ持つ(併存する)こともあり、その場合は困難さがより複雑になります。
ADHDの診断と治療・対策
「自分はADHDかもしれない」と感じたら、どこに相談し、どのように診断や治療が進められるのでしょうか。
どこに相談すればいい?(相談窓口)
まずは一人で抱え込まず、専門の相談機関を利用することが第一歩です。
- 精神科・心療内科
- ADHDの診断・治療を専門に行う医療機関です。大人の発達障害を診てくれるかどうか、事前にウェブサイトなどで確認してから受診するとスムーズです。
- 発達障害者支援センター
- 各都道府県・指定都市に設置されている公的な専門機関です。本人や家族からの相談に応じ、医療機関や福祉サービス、就労支援機関などの情報提供や紹介を行ってくれます。どこに相談して良いか分からない場合の最初の窓口として適しています。
- その他
- 地域の保健所や精神保健福祉センターでも相談が可能です。
ADHDの診断基準
ADHDの診断は、精神科医などの専門医によって、アメリカ精神医学会が作成した『DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)』などの国際的な診断基準に基づいて行われます。診断は、チェックリストだけで簡単に決まるものではなく、以下のような情報を総合的に評価して慎重に行われます。
- 症状の持続と支障
- 「不注意」または「多動性・衝動性」の症状が6ヶ月以上にわたって持続し、その特性が日常生活や社会生活に明らかに支障をきたしていること。
- 発症年齢
- 多くの症状が、12歳になる前から存在していたこと。
- 状況の多様性
- 症状が、家庭と職場(または学校)など、2つ以上の状況で認められること。
これらの情報を、本人や家族、場合によっては子どもの頃の様子を知る人への詳しい問診、心理検査、行動観察などを通じて評価し、他の精神疾患の可能性も除外した上で、診断が下されます。
主な治療・対策の方法
ADHDへの対応は、単一の特効薬があるわけではなく、複数のアプローチを組み合わせて行うのが基本です。
- 心理社会的治療(環境調整・認知行動療法など)
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- 環境調整
- ADHDの特性による困難を、本人の努力だけで解決するのではなく、周りの環境を工夫することで軽減する考え方です。例えば、集中を妨げる刺激が少ない環境を整える(デスク周りを整理する、パーテーションで区切るなど)、周囲に協力を求める(口頭だけでなくチャットでも指示をもらうなど)といった工夫が有効です。
- 認知行動療法
- 自分の思考の癖や行動パターンに気づき、より現実的で生活しやすくなるような考え方や行動を身につけていく心理療法です。例えば、「またミスをした。自分はダメだ」という自動思考に対し、「誰でもミスはする。次はどう防ぐか考えよう」と捉え直す練習をし、自己肯定感の低下を防ぎます。
- 薬物療法
- 心理社会的治療を行っても困難が改善されない場合に、補助的な手段として薬物療法が検討されます。ADHD治療薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを調整し、不注意や多動性・衝動性といった中核症状を緩和する効果が期待されます。現在、日本で成人のADHD治療に承認されている主な薬には、メチルフェニデート(商品名:コンサータ)、アトモキセチン(商品名:ストラテラ)、グアンファシン(商品名:インチュニブ)、リスデキサンフェタミン(商品名:ビバンセ)などがあります。これらの薬は、医師の診断と処方がなければ使用できません。
日常生活でできるADHDの症状への対処法
ADHDの特性とうまく付き合っていくには、日常生活での具体的な工夫が非常に重要です。今日からすぐに始められる対処法を紹介します。
「記録」で「記憶」をカバーする(メモ・チェックリスト)
忘れっぽさや注意散漫への対策として、最も基本的で効果的なのが「記録」の習慣化です。
- すぐに書き留める
- 自分の記憶力を過信せず、「言われたこと」「やるべきこと」「思いついたこと」は、どんな些細なことでも、すぐにメモ帳やスマートフォンのメモアプリに書き留めます。
- 情報を一元化する
- メモ帳やアプリを複数使うと、どこに何を書いたか分からなくなります。メモする場所は一つに決め、「ここを見れば全て分かる」という状態を作りましょう。
- タスクを細分化する
- 「企画書を作成する」といった大きなタスクは、「①資料収集」「②構成案作成」「③下書き」「④上司確認」のように、具体的な行動レベルまで分解してチェックリスト化します。これにより、何から手をつければ良いかが明確になり、達成感も得やすくなります。
- リマインダーを活用する
- 会議や通院、ゴミ出しの日など、大小関わらず全ての予定をスマートフォンのリマインダーに登録しましょう。時間になると音で知らせてくれるため、うっかり忘れを防げます。
「時間」を見える化し管理する
ADHDのある方は、時間の感覚が特有で、経過を把握したり、作業時間の見積もりをしたりするのが苦手な傾向があります。
- タイマーを活用する
- 「25分集中して5分休憩」を繰り返す「ポモドーロ・テクニック」は、集中力を維持しやすく、多くの人に有効な時間管理術です。タイマーを使うことで「あと何分」という時間を意識できます。
- アナログ時計を使う
- デジタル時計よりも、針の動きで時間の経過が視覚的に分かりやすいアナログ時計が有効な場合があります。
- バッファを設ける
- 約束の時間に遅れがちな場合は、移動時間や準備時間を多めに見積もり、「予定の30分前には到着する」つもりで計画を立てるなど、余裕(バッファ)を持つ工夫をしましょう。
周囲の理解と協力を得る(合理的配慮)
可能であれば、職場の信頼できる上司や同僚、あるいは家族に自分の特性を伝え、具体的な協力を求めることも有効な対処法です。これは「合理的配慮」の考え方にもつながります。
- 具体的に伝える
- 「ADHDです」と伝えるだけでなく、「大事なご指示は、口頭だけでなくメールやチャットでも頂けると、確認できるので大変助かります」のように、どうしてほしいかを具体的に伝えましょう。
- クッション言葉を使う
- 「もし、私の話が急に飛んでしまったら、『今、話が飛びましたよ』と教えてもらえると嬉しいです」のように、相手が指摘しやすいような伝え方を工夫するのも有効です。
障害者手帳の有無にかかわらず、事業主には障害のある従業員が能力を発揮できるよう、過重な負担にならない範囲で配慮を提供することが求められています。周囲の理解と協力を得ることで、不要な誤解を避け、働きやすい環境を自ら作っていくことができます。
ADHDの特性を活かした働き方を探すなら 就労継続支援B型事業所オリーブへ
様々な工夫をしても、すぐに一般企業で働くことに不安を感じる方もいるでしょう。「まずは、ミスをしても受け入れてもらえる安心できる環境で、働くことに慣れたい」「自分のペースで、得意なことを見つけたい」。そう考えるなら、就労継続支援B型事業所の利用も一つの有効な選択肢です。
ADHDの特性が「強み」になる仕事とは
ADHDの特性は、短所と見られがちですが、環境や職務内容によっては大きな強みにもなります。
- 独創的な発想力・好奇心
- 次々とアイデアが浮かぶ、興味の幅が広いといった特性は、デザイナーやライター、商品企画などのクリエイティブ職で活かせます。
- 行動力・瞬発力
- 思い立ったらすぐ行動できるフットワークの軽さは、変化やスピード感が求められる営業職や接客業、救急医療などの現場で強みになります。
- 過集中
- 興味のあることへの驚異的な集中力は、研究者やプログラマー、職人など、一つの分野をとことん追求する専門職で高く評価される可能性があります。
オリーブで自分らしい働き方を見つける
就労継続支援B型事業所オリーブでは、ADHDなどの発達障害の特性を持つ方が、それぞれのペースを大切にしながら、データ入力や軽作業、創作活動などの仕事に取り組んでいます。雇用契約を結ばないため、週1日・短時間からでも利用でき、安定した生活リズムを作りながら、働くことへの自信を育んでいくことが可能です。オリーブでの活動を通じて、ご自身の強みや、自分に合った働き方を探してみませんか。ぜひ一度、お近くのオリーブへ見学・相談にお越しください。