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【大人のチック症】症状や原因は?仕事でできる工夫や治療・受診先も解説

大人のチック症とは?

「大事な会議中に、何度も咳払いをしてしまう」「人前で話すときに、意図せず顔をしかめてしまう」。このような、自分の意思とは関係なく、まばたきや咳払いといった動きや声が繰り返し出てしまう症状に悩んでいませんか。それは「大人のチック症」かもしれません。子どもに多いイメージがありますが、大人になってから発症したり、子どもの頃の症状が続いたりする方は少なくありません。チック症は、本人の性格や育て方が原因ではなく、脳の神経伝達物質のアンバランスなどが関係していると考えられている神経疾患です。この記事では、大人のチック症の主な症状や原因、仕事でできる具体的な工夫、そして利用できる治療法や福祉サービスについて、公的な情報に基づき分かりやすく解説します。チック症の症状は、ストレスや疲れで悪化することもありますが、適切な治療や環境調整によって、症状と上手に付き合いながら自分らしく働くことは可能です。就労に関するお悩みを一人で抱え込まず、専門の支援機関に相談することも有効な選択肢です。

本人の意思とは関係なく体の一部が動いたり声が出たりする症状

チック症(チック障害)とは、本人の意思とは無関係に、体の一部が突然、繰り返し動いたり(運動チック)、声が出たり(音声チック)する症状が現れる神経疾患の一種です。クセのように見えることもありますが、本人が意図的に行っているわけではありません。症状はまばたきや首振り、咳払いなど多岐にわたり、ストレスや疲労、緊張、興奮といった心身の状態によって一時的に症状が強まる(増悪する)ことがあります。逆に、趣味や仕事など何かに集中しているときや、リラックスしているときには、症状が軽くなる傾向が見られます。多くの場合は子どもの頃に発症しますが、成人してからも症状が続いたり、大人になってから初めて発症したりするケースもあります。症状を無理に抑えようと意識すると、かえって強い緊張感が生まれ、症状が悪化してしまうという悪循環に陥ることも少なくありません。

トゥレット症候群(チックが1年以上続く場合)

チック症の中でも、多彩な運動チックと1つ以上の音声チックの両方が1年以上にわたって続く場合、国際的な診断基準に基づき「トゥレット症候群(またはトゥレット障害)」と診断されることがあります。トゥレット症候群は、チック症の重症型と位置づけられていますが、知的障害や発達の遅れを伴うものではありません。症状の強さには波があり、良くなったり悪くなったり(寛解と増悪)を繰り返しながら、長期間にわたって症状と付き合っていくことが特徴です。厚生労働省の「e-ヘルスネット」によると、トゥレット症候群は小児期に発症することがほとんどで、多くは10代後半から20代前半にかけて症状が軽快するとされていますが、一部は成人後も症状が持続、あるいは大人になってから発症することもあります。

チック症の主な症状

チックの症状は、動きとして現れる「運動チック」と、声や音として現れる「音声チック」の2種類に大別されます。さらに、それぞれが比較的単純な動きや発声である「単純チック」と、より複雑な一連の動きや言葉を伴う「複雑チック」に分類されます。

運動チックと音声チックの具体例

運動チック

急に体の一部が意図せず動く症状です。

単純運動チックの例:

  • まばたき
  • 首振り、首回し
  • 顔をしかめる
  • 肩をすくめる
  • 口をゆがめる、唇を尖らせる

複雑運動チックの例:

  • 自分の体を触る、叩く、つねる
  • 物の匂いを執拗にかく
  • 飛び跳ねる、しゃがみこむ
  • 他人の動きをそのまま真似る(エコプラキシア)
  • 社会的に不適切な動作や卑猥なジェスチャーをしてしまう(コプロプラキシア)

音声チック

急に声や音が出てしまう症状です。

単純音声チックの例:

  • 咳払い
  • 鼻をすする、鳴らす
  • 「あ」「うっ」などの短い母音を発する
  • 舌打ちをする
  • 犬の鳴き声のような音を出す

複雑音声チックの例:

  • 汚い言葉や不適切な言葉を意図せず叫んでしまう(コプロラリア)
  • 他人の言った言葉をそのまま繰り返す(エコラリア)
  • 自分が言った言葉や文末を何度も繰り返す(パリラリア)

これらの多彩な症状が、本人の意思とは反して現れるのがチック症の大きな特徴です。

仕事や日常生活で想定される困りごと

チックの症状は、仕事や日常生活の様々な場面で影響を及ぼす可能性があります。症状そのものだけでなく、「周りからどう見られているか」という他者の視線への不安や、症状を抑えようとすることによる精神的な疲労が、ご本人にとって大きな負担となることがあります。

場面 想定される困りごと
職場でのコミュニケーション ・会議中や商談中に咳払いや特定の単語を繰り返してしまい、話の腰を折ってしまう。
・意図せず相手の言葉を繰り返してしまい(エコラリア)、真似をしていると誤解され、人間関係に影響が出ることがある。
パソコン作業などのデスクワーク ・首振りや肩すくめが頻繁に起こり、画面に集中できない。
・集中しようとすると逆に症状が強くなり、作業効率が落ちてしまう。
・静かなオフィスで音を立ててしまうことに気を使うあまり、精神的に疲弊してしまう。
接客や電話応対 ・まばたきが多くなったり、顔をしかめたりしてしまい、相手に不安や不快感を与えてしまうのではないかと心配になる。
・急に不適切な言葉が出てしまう(コプロラリア)のではないかという不安から、人と接する仕事自体を避けてしまう。
公共交通機関での通勤 ・電車内などの静かな空間で声や音が出てしまい、周囲の目が気になる。
・人混みや「静かにしなければ」という緊張感から症状が強くなり、通勤だけでエネルギーを消耗してしまう。

これらの困りごとの背景には、「症状をコントロールできない自己嫌悪」や「周囲に迷惑をかけているという罪悪感」が複雑に絡み合っています。本来の業務に使うべき精神的なエネルギーを、症状を抑えることや周囲への気遣いに費やしてしまうため、著しく疲弊し、仕事のパフォーマンスが低下したり、出勤が困難になったりするケースも少なくありません。

チック症の原因と受診先

チック症の主な原因

チック症の正確な原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、現在では「親の育て方の問題」や「愛情不足」といった心理的な要因だけが原因ではなく、主に脳機能の偏りが関係しているという「神経生物学的要因」が有力視されています。

考えられる主な要因

遺伝的要因
チック症やトゥレット症候群は、血縁関係のある家族内で発症がみられることがあり、何らかの遺伝的な要因が関与していると考えられています。

 

神経生物学的要因
脳内の神経伝達物質である「ドーパミン」などの働きがアンバランスになることで、運動の調節に関わる「大脳基底核」と呼ばれる部分の回路がうまく機能せず、症状が引き起こされるという仮説が有力です。

 

環境要因
ストレス、疲労、不安、興奮などは、チックを発症させる直接的な原因ではありませんが、症状を悪化させる要因(増悪因子)となることが分かっています。生活環境や人間関係の変化が、症状の波に影響を与えることがあります。

 

また、チック症は、ADHD(注意欠如・多動症)やOCD(強迫症/強迫性障害)といった他の発達障害や精神疾患と併存することも少なくありません。特に強迫症との関連は深く、考えや行動の「こだわり」がチック症状と結びつくこともあります。

チック症は何科を受診すればいい?

大人のチック症の症状で悩んでいる場合、以下の診療科が主な相談先となります。

主な受診先

精神科・心療内科
心の不調やストレスに関する専門家であり、チック症の診断や治療はもちろん、併存しやすい不安やうつ、強迫症状などに対する包括的なケアを行います。薬物療法やカウンセリングなど、治療の選択肢が幅広いです。

 

神経内科
脳や脊髄、神経、筋肉といった「神経系」の病気を専門とします。チック症の背景にある脳の機能的な問題を評価し、てんかんなど他の神経疾患との鑑別診断(見分けるための診断)を行います。

 

どちらを受診すればよいか迷う場合は、まず精神科や心療内科に相談してみるのが一般的です。クリニックによっては、ウェブサイトに「大人の発達障害」や「チック症」の診療を行っていることを明記しているところもありますので、事前に確認すると良いでしょう。初診時には、いつからどのような症状があるか、どんな時に症状が出やすいか、生活や仕事で困っていることは何かなどを詳しく聞かれます。事前に情報をメモにまとめておくと、医師に状況を正確に伝えやすくなります。

大人のチック症の治療と工夫

主な治療法(心理教育・環境調整・薬物療法など)

大人のチック症の治療は、症状を完全になくす「根治」だけを目的とするのではなく、症状と上手に付き合いながら、ご本人やまわりの人の困りごとを減らしていくことを大きな目標とします。治療法は一つではなく、症状の程度や本人の希望に応じて、以下のような方法を組み合わせて行われます。

心理教育

ご本人やご家族、職場の同僚など、周囲の人がチック症という症状について正しく理解するための、治療の基本となるアプローチです。

チック症の特性を理解する
チックが本人の意思とは関係なく起こる神経系の症状であり、性格や意欲の問題ではないことを理解します。これにより、本人を責めたり、症状を無理にやめさせようとしたりする不適切な対応がなくなり、本人の心理的な負担が大きく軽減されます。

 

症状との付き合い方を学ぶ
どのような状況で症状が悪化しやすいかを客観的に把握し、対策を考えます。症状を完全にコントロールしようと力むのではなく、あるがままに受け入れ、セルフケアの方法を身につけることも大切です。

 

環境調整

症状を悪化させるストレス要因を減らし、安心して過ごせる環境を整えることは、症状の安定に非常に有効です。

具体的な調整の例:

  • 十分な休息や睡眠時間を確保する
  • 仕事量を調整し、過度な負担やプレッシャーを避ける
  • パーテーションで区切られた、静かで集中しやすい作業環境を整える
  • 症状が強くなった時に、一時的に離席してクールダウンできる休憩場所を確保する
  • 音声チックがある場合、電話応対の少ない業務への変更を相談する

認知行動療法(ハビットリバーサル法)

ハビットリバーサル法(習慣逆転法)は、チック症に対する代表的な認知行動療法の一つで、特に効果が高いとされる心理療法です。この治療法は、以下のステップで進められます。

気づきの訓練(アウェアネス・トレーニング)
チックが出そうになる直前に生じる、むずむずするような、押さえがたい感覚(前駆衝動)を自分で認識する訓練から始めます。

 

拮抗反応の訓練(カウンセリング・トレーニング)
前駆衝動に気づいた時に、チックの動きとは両立しない、別の目立たない動き(拮抗反応)に意図的に置き換えます。例えば、「首を振るチック」に対しては「首の筋肉に静かに力を入れて数秒間維持する」、「咳払いのチック」に対しては「口を閉じて鼻からゆっくり深呼吸する」といった具合です。

 

この訓練を専門家のもとで繰り返すことで、チックの症状を自分である程度コントロールできるという感覚(自己効力感)を高め、症状の頻度や強度を減らしていくことを目指します。

薬物療法

日常生活への支障が大きく、他の治療法で十分な改善が見られない場合には、薬物療法が検討されます。主に、脳内のドーパミンの働きを調整する非定型抗精神病薬などが用いられます。薬物療法は、症状を完全に抑えるというよりは、日常生活の支障を軽減することを目的として行われます。眠気や体重増加などの副作用が出る可能性もあるため、医師と効果や副作用についてよく相談しながら、慎重に進めることが重要です。

日常生活でできる工夫

治療と並行して、日常生活の中でできる工夫を取り入れることも、症状と上手に付き合っていくために大切です。

ストレスや疲労を溜めない
自分に合ったストレス解消法を見つけ、意識的にリフレッシュする時間を作りましょう。(例:趣味に没頭する、ぬるめのお風呂に浸かる、十分な睡眠、軽い運動など)

 

症状について周囲に伝える(カミングアウト)
信頼できる家族や友人、職場の同僚や上司に症状について伝えておくことは、有効な選択肢の一つです。「わざとやっているわけではない」と理解してもらうことで、不要な誤解を避け、心理的な負担を大きく減らせます。ただし、伝えるかどうか、誰に、どこまで伝えるかは、ご自身の判断で慎重に決めることが大切です。

 

職場での伝え方と合理的配慮
障害者雇用促進法では、事業主に対し、障害のある従業員から申し出があった場合に、その人の障害特性に応じた「合理的配慮」の提供を義務付けています。チック症の症状によって仕事に支障が出ている場合、上司や人事担当者に相談し、配慮を求めることができます。(例:電話応対業務を減らしメール対応を増やす、静かな席への移動、緊張する場面での業務代行、定期的な休憩の許可など)

 

利用できる福祉サービス

チック症の症状や、それに伴う日常生活・社会生活上の困難の程度によっては、公的な福祉サービスを利用できる場合があります。

精神障害者保健福祉手帳

チック症やトゥレット症候群は、ADHDやOCDといった他の精神疾患を併存していることも多く、症状によって長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある場合、「精神障害者保健福祉手帳」の交付対象となる可能性があります。申請には、原則として初診日から6ヶ月以上経過していることと、専門の医師による診断書が必要です。手帳を取得すると、障害の程度(1級~3級)に応じて、税金の控除や公共料金の割引、障害者雇用枠での就労など、様々な福祉サービスや支援を受けられるようになります。

障害者総合支援法に基づくサービス

障害者手帳の有無にかかわらず、医師の診断書や意見書などに基づき、市町村が必要性を認めれば、「障害者総合支援法」が定める障害福祉サービスを利用できる場合があります。

自立訓練(生活訓練)
体調管理やストレスコントロールの方法を学ぶ場としても活用できます。

 

就労移行支援
一般企業への就職を目指す障害のある方(原則65歳未満)を対象に、職業訓練や職場探し、就職後の定着支援などを行うサービスです(利用期間は原則2年間)。

 

就労継続支援(A型・B型)
一般企業で働くことが難しい場合に、支援を受けながら働くことができるサービスです。雇用契約を結び、最低賃金が保障されるA型と、雇用契約を結ばずに体調に合わせて自分のペースで簡単な作業を行い、生産物に対する工賃を受け取るB型があります。

 

これらのサービスは、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や、相談支援事業所などで相談・申請ができます。

チックの症状を相談しながら働ける就労継続支援B型事業所オリーブ

チック症の症状があると、「周りに迷惑をかけてしまうのではないか」「症状を理解してもらえないのではないか」といった不安から、働くことへのハードルを高く感じてしまうかもしれません。そのような不安を抱えている方にとって、「就労継続支援B型事業所オリーブ」は、安心して自分のペースで働くための一つの有効な選択肢となります。オリーブは、障害や病気の特性を理解したスタッフが常駐しており、一人ひとりの体調やペースに合わせた働き方をサポートする場所です。

チックの症状が出やすい場面や時間帯について相談し、作業内容や時間を調整することも可能です。「疲れがたまると症状が出やすいので、今日は早めに切り上げたい」「静かな環境で作業したい」といった相談にも柔軟に対応します。周りの利用者さんも様々な事情を抱えているため、お互いに理解し合える環境が整っています。まずは週1日、数時間の利用から始めることもできますので、「働くことに慣れたい」「生活リズムを整えたい」という方にとって、社会参加への第一歩を踏み出す場所として最適です。ご本人だけでなく、ご家族からの見学や相談も随時受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。

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