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【大人の発達障害】種類や特徴・仕事の悩みや相談先について解説

発達障害とは?
「何度確認してもケアレスミスが減らない」「相手の冗談が分からず、真に受けてしまう」「特定の音や光がひどく苦痛に感じる」。このような悩みは、本人の努力や性格の問題ではなく、発達障害の特性が関係しているかもしれません。発達障害は、生まれつきの脳機能の発達の偏りによるもので、決して珍しいものではありません。この記事では、大人の発達障害の代表的な種類である「ASD(自閉スペクトラム症)」「ADHD(注意欠如多動症)」「LD・SLD(限局性学習症)」のそれぞれの特徴や、仕事で直面しがちな困難、そして無理なく働くための具体的な工夫について詳しく解説します。また、一人で悩まずに相談できる専門機関も紹介しますので、ご自身の特性を客観的に理解し、より良い働き方を見つけるための一助となれば幸いです。
生まれつきの脳機能の発達の偏りによる障害
発達障害は、生まれつき見られる脳機能の発達の仕方の違いによって、行動面や情緒面に特徴が現れる状態を指します。親の育て方や本人の努力不足が原因ではありません。脳機能の発達に偏りがあるため、ある分野では非常に優れた能力を発揮する一方で、特定の分野では著しい苦手さを示すといった、能力の「凸凹(でこぼこ)」が特徴です。この得意・不得意の差が大きいことで、日常生活や社会生活において様々な困難が生じることがあります。
厚生労働省の定義では、発達障害は以下の障害の総称とされています。
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 注意欠如・多動症(ADHD)
- 学習障害(LD)
- 発達性協調運動障害
- チック障害
「大人の発達障害」で困りごとが表面化する理由
子どもの頃は「少し変わった子」「おっちょこちょい」として見過ごされてきた特性が、大人になってから顕著になることがあります。これは、大人になると、学生時代とは比較にならないほど複雑な対人関係や、高度な自己管理能力が求められるためです。学生時代は、決められた時間割の中で行動し、課題も明確に指示されることが多いです。しかし社会人になると、複数の業務を同時に進行させるマルチタスク能力や、自分で優先順位をつけて計画的に仕事を進める能力、そして上司・同僚・顧客との円滑なコミュニケーションや「暗黙のルール」を察する能力など、多岐にわたるスキルが求められます。
このような環境の変化に対応しようと無理を重ねた結果、心身ともに疲弊し、うつ病や不安障害、適応障害といった「二次障害」を引き起こしてしまうケースも少なくありません。自分の特性を正しく理解し、適切な対処法を身につけることが、こうした事態を防ぐ上で非常に重要です。
発達障害の主な種類と特徴
発達障害にはいくつかの種類があり、複数の特性を併せ持つことも珍しくありません。ここでは代表的な3つの種類について、その特徴と仕事における困りごと、そして「強み」となり得る側面を解説します。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASDは、主に「対人関係や相互的コミュニケーションの困難」と「限定された興味やこだわり、感覚の特性」の2つの特性によって定義されます。以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」などと個別に診断されていましたが、現在はこれらの特性を連続体(スペクトラム)として捉え、「自閉スペクトラム症」と呼ぶのが一般的です。
ASDの主な特性と仕事での「困りごと」「強み」
特性 | 具体的な特徴の例 | 仕事での困りごとの例 | 強みとなり得る点 |
---|---|---|---|
対人関係・コミュニケーションの困難 | ・相手の表情や声のトーンから気持ちを察するのが苦手 ・比喩や皮肉、冗談が通じにくい ・曖昧な指示(「適当に」など)の理解が難しい ・思ったことをストレートに伝えすぎる |
・上司や同僚との雑談に入れず孤立しがち ・「空気が読めない」と誤解されやすい ・会議で発言のタイミングが掴めない ・報告・連絡・相談が苦手で問題を抱え込む |
・論理的で客観的な判断が得意 ・他人の感情に流されず、事実に基づいて冷静に対応できる ・お世辞や嘘がなく、誠実で正直な印象を与える |
限定された興味・こだわり、感覚特性 | ・特定の手順やルールに強くこだわる ・興味のあることに驚異的な集中力と記憶力を発揮する ・急な予定変更や環境の変化が非常に苦手 ・特定の音、光、匂いなどに過敏または鈍感 |
・マニュアル外のイレギュラー対応が苦手 ・優先順位より自分のこだわりを優先してしまう ・オフィスの騒音や照明が気になり集中できない ・職場の異動やレイアウト変更が大きなストレス |
・興味のある分野では専門家レベルの知識を習得できる ・高い集中力で、緻密な作業や品質管理で力を発揮する ・一度決めたルールを忠実に守り、正確な業務遂行ができる |
ADHD(注意欠如多動症)
ADHDは、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの特性が特徴です。これらの特性の現れ方により、主に「不注意優勢型」「多動・衝動優勢型」「混合型」の3タイプに分けられます。
ADHDの主な特性と仕事での「困りごと」「強み」
タイプ | 主な特徴 | 仕事での困りごとの例 | 強みとなり得る点 |
---|---|---|---|
不注意優勢型 | ・集中力が続かず、ケアレスミスが多い ・忘れ物や失くし物が多い ・整理整頓やタスク管理が苦手 ・話を聞いていないように見えることがある |
・重要な書類で数字を間違える、誤字脱字が多い ・納期や約束をうっかり忘れる ・机の上やPC内が散らかり、必要な情報が見つからない ・複数の仕事を抱えるとパニックになる |
・様々なことに興味関心を持ち、知識が豊富 ・既存の枠にとらわれない、ユニークな視点を持つ ・好きなことには高い集中力(過集中)を発揮する |
多動・衝動優勢型 | ・じっとしているのが苦手で、そわそわする ・思ったことを考えずに発言してしまう ・相手の話を遮って話し始めることがある |
・長時間の会議やデスクワークが苦痛に感じる ・人の話に割り込み、人間関係を損ねることがある ・指示を最後まで聞かず、思い込みで始めてしまう ・結果を考えずに行動し、トラブルになることがある |
・行動力があり、フットワークが軽い ・決断が早く、スピード感が求められる仕事で力を発揮する ・エネルギッシュで、周囲を巻き込む力がある ・新しいことに挑戦する意欲が高い |
LD・SLD(限局性学習症/学習障害)
LD・SLDは、全般的な知的発達に遅れはないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」といった特定の能力の習得と使用に著しい困難がある状態です。現在は「限局性学習症(SLD)」という診断名が用いられています。
LD・SLDの主な特性と仕事での「困りごと」「強み」
タイプ | 困難さの例 | 仕事での困りごとの例 | 強みとなり得る点 |
---|---|---|---|
読字障害(ディスレクシア) | ・文字を読むのが非常に遅い ・読み飛ばしや、同じ所を何度も読んでしまう ・似た形の文字を混同する |
・長文メールやマニュアルを読むのに時間がかかる ・会議資料の読み込みが間に合わない ・人前での音読が苦痛 |
・聴覚的な記憶力や理解力に優れている場合がある ・口頭でのコミュニケーション能力が高い ・実体験から学ぶことが得意 |
書字障害(ディスグラフィア) | ・文字の形を整えて書くのが難しい ・漢字を思い出せない、鏡文字になる ・文章構成や句読点の使用が苦手 |
・手書きでの書類作成や議事録作成が困難 ・報告書やメールの文章がうまくまとめられない ・PCでのタイピングは問題ない場合が多い |
・会話での表現力やアイデアが豊か ・デザインや設計など、視覚的な思考が得意な場合がある |
算数障害(ディスカリキュリア) | ・簡単な暗算や筆算が苦手 ・数字や記号(+、-)を混同する ・グラフや図形の理解が難しい |
・経費精算や見積書作成でミスが多い ・売上データの集計や分析が苦手 ・時間管理やスケジュール調整が困難 |
・言語的な能力や概念の理解力に優れている場合がある ・クリエイティブな発想力を持つ ・抽象的な思考が得意な場合がある |
発達障害の診断と受診先
ご自身の困りごとが発達障害の特性によるものかもしれないと感じたら、専門機関を受診し、適切な診断を受けることが、問題解決の第一歩です。
発達障害の診断が行える病院(精神科・心療内科など)
大人の発達障害の診断は、主に精神科や心療内科、大学病院などの専門外来で行われます。全ての精神科で対応しているわけではないため、事前にウェブサイトで確認するか、電話で「大人の発達障害の診断は可能ですか?」と問い合わせることが重要です。地域の発達障害者支援センターなどで、診断可能な医療機関を紹介してもらうこともできます。
診断・検査の基本的な流れ
診断は、一度の診察で完了するものではなく、複数回の通院を経て、問診や心理検査の結果、国際的な診断基準(DSM-5など)を元に医師が総合的に判断します。
- 問診
- 現在の困りごとや、子どもの頃の様子(生育歴)について詳しく聞かれます。可能であれば、幼少期の通知表や母子手帳、家族からの情報などがあると、診断の助けになります。
- 心理検査
- 必要に応じて、知能検査(WAIS-Ⅳなど)や、発達特性を測る質問紙検査などを行います。これは客観的に個人の能力の凸凹を評価するためのものです。
発達障害のある方の仕事の悩みと工夫
発達障害の特性は、仕事の様々な場面で困難を引き起こす可能性がありますが、自分の特性を理解し、適切な工夫や配慮を得ることで、能力を発揮しやすくなります。
無理なく仕事を続けるためのセルフケアと環境調整
困りごとを軽減し、自分の力を発揮するためには、自分で行う「セルフケア」と、職場にお願いする「環境調整」の両方が有効です。
具体的な工夫の例
困りごと | 工夫や対策の例 |
---|---|
タスク・スケジュール管理 | ・スマートフォンのリマインダーやアラーム機能を活用する ・タスクを細分化し、チェックリストを作成して一つずつ消していく ・仕事の優先順位が分からない時は、上司に相談して指示を仰ぐ |
コミュニケーション | ・指示は曖昧な表現を避け、具体的に説明してもらうようお願いする ・口頭での指示は忘れたり誤解したりしやすいため、メールやチャットで記録に残してもらう ・雑談が苦手な場合は、無理に参加せず聞き役に徹したり、会釈で済ませたりする |
感覚過敏 | ・ノイズキャンセリング機能のあるイヤホンや耳栓の使用許可をもらう ・デスクの位置を人通りの少ない場所に変更してもらう ・照明が眩しい場合は、サングラスの着用や一部消灯などの配慮を相談する |
環境調整・合理的配慮 | ・パーテーションで区切るなど、視覚的な情報が少ない環境を整えてもらう ・業務内容を絞ってもらったり、マニュアルを整備してもらったりする ・困った時にすぐに相談できる担当者を決めてもらう |
これらの工夫は、障害者雇用促進法で定められている「合理的配慮」に該当するものも多くあります。合理的配慮とは、障害のある方が働く上での障壁を取り除くため、事業主が過度な負担にならない範囲で個別の調整を行うことです。自身の障害特性を職場に伝え、必要な配慮を相談することも大切な選択肢です。
発達障害に関する主な相談先
一人で悩みを抱え込まず、専門の支援機関に相談することで、問題解決の糸口が見つかることがあります。
発達障害者支援センター
各都道府県・指定都市に設置されており、発達障害のある方やその家族からの様々な相談に応じる総合的な支援機関です。医療、福祉、労働などの関係機関と連携しながら、本人に合ったサポートを一緒に考えてくれます。どこに相談したら良いか分からない場合の最初の窓口として適しています。
障害者就業・生活支援センター
「なかぽつ」の愛称で知られ、就職に関する相談(就業支援)と、それに伴う日常生活の相談(生活支援)を一体的に行っています。全国に337か所設置されており(令和5年4月1日現在)、身近な場所で就職から生活まで一貫したサポートを受けられるのが特徴です。
地域障害者職業センター
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が運営し、ハローワークと連携して専門的な職業リハビリテーションを提供します。職場にジョブコーチを派遣して定着を支援する「職場適応援助者支援」や、休職中の方向けの「リワーク支援」など、より専門的な支援を受けられます。
ハローワーク
障害のある方向けの専門窓口が設置されており、障害特性を理解した専門の職員から、職業相談や障害者向け求人の紹介などのサポートを受けられます。
自分のペースで働くことから始めたい方は就労継続支援B型事業所オリーブへ
「いきなり一般企業で働くのは不安」「まずは自分のペースで仕事に慣れたい」。そう感じる方にとって、就労継続支援B型事業所オリーブは、安心して次の一歩を踏み出すための選択肢となります。就労継続支援B型事業所は、障害者総合支援法に基づく福祉サービスで、一般企業での就労が困難な方が、雇用契約を結ばずに、自分のペースで働くことができる場所です。オリーブでは、ASD、ADHD、LDなど、一人ひとりの障害特性や能力の凸凹をスタッフが深く理解し、その人に合った作業を提供します。
例えば、対人関係が苦手な方には黙々と取り組める軽作業を、集中力の維持が難しい方には短時間で切り替えられる複数の作業を用意するなど、個別の配慮が可能です。週1日、数時間の利用からスタートできるので、まずは生活リズムを整え、働く体力をつけることから始められます。同じように様々な悩みを抱える仲間がいる環境で、安心して自分らしい働き方を見つけてみませんか。ご本人だけでなく、ご家族からの見学や相談も随時受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。