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大人のアスペルガー症候群とは?特徴や仕事の悩み・相談できる支援機関を解説

「真面目に仕事をしているつもりなのに、なぜか周りから『空気が読めない』と言われてしまう」「好きなことにはとことん集中できるけれど、雑談や曖昧な指示がとても苦手」「昔から、どこか周りと馴染めない感覚がある」。もしあなたが、こうした対人関係やコミュニケーションでの悩み、特定の物事への強いこだわりといった特性を抱え、生きづらさを感じているとしたら、その背景には「アスペルガー症候群」の特性が関係しているかもしれません。現在、アスペルガー症候群は「ASD(自閉スペクトラム症)」という診断名に統合されていますが、その特性を理解し、自分に合った環境や工夫を見つけることは、仕事や日常生活の困難を和らげるための大きな一歩となります。この記事では、大人のアスペルガー症候群(ASD)の主な特徴や、仕事で直面しがちな悩みと強み、そして利用できる支援機関まで、分かりやすく解説していきます。
アスペルガー症候群とASD(自閉スペクトラム症)の関係
まず、現在では「アスペルガー症候群」という診断名がどのように扱われているのか、その関係性を正しく理解しておくことが重要です。
現在はASD(自閉スペクトラム症)に統合されている
かつて、発達障害の診断基準として用いられていたDSM-IV(アメリカ精神医学会『精神疾患の診断・統計マニュアル』第4版)では、「アスペルガー症候群」は独立した診断名として存在していました。しかし、2013年に改訂された最新の診断基準DSM-5では、アスペルガー症候群や自閉症などの分類は廃止され、共通の特性を持つ一つのグループとして「ASD(自閉スペクトラム症)」という診断名に統合されました。
「スペクトラム」とは、「連続体」という意味です。障害の特性やその現れ方は、白か黒かではっきりと分けられるものではなく、人によって様々で、明確な境界線を引くことはできません。そのため、知的障害や言語の遅れの有無にかかわらず、共通の特性を持つ一連の連続体として捉えるのが、ASD(自閉スペクトラム症)という考え方です。
現在では、知的障害や言語の遅れを伴わない場合に、以前の「アスペルガー症候群」とほぼ同じ意味合いで「ASD(自閉スペクトラム症)」と診断されます。一般的には、今でも「アスペルガー症候群」という言葉が分かりやすい特性を表す言葉として使われることもあります。
大人になってから診断されるケースも
アスペルガー症候群(ASD)の特性は、生まれつき持っているものですが、子どもの頃にはその困難が表面化せず、大人になって社会に出てから、初めて診断に至るケースも少なくありません。学生時代までは、比較的ルールが明確で、周囲のサポートもあったため、何とか適応できていた方が、社会人になると、職場での複雑な人間関係や、曖昧な指示、「暗黙の了解」を察すること、臨機応変な対応といった、より高度な社会性を求められるようになります。こうした環境の変化の中で、自身の特性による困難が顕著になり、「生きづらさ」の原因を探るために医療機関を受診し、診断を受けるのです。
大人のアスペルガー症候群(ASD)の主な特徴
アスペルガー症候群(ASD)の特性は、大きく分けて「社会的コミュニケーションの困難さ」と「限定された興味やこだわり、感覚の特性」の2つの中核的な特徴があります。
社会的コミュニケーションや対人関係の苦手さ
知的な遅れがないため、一見するとコミュニケーションに問題がないように見えますが、その質的な部分で特有の困難さを抱えています。
- 非言語的コミュニケーションの理解が苦手
- 相手の表情や声のトーン、身振り手振りといった、言葉以外の情報(非言語的サイン)から、相手の感情や意図を読み取ることが苦手です。「場の空気を読む」「行間を読む」といったことが難しく、悪気なく不適切な発言をしてしまうことがあります。
- 言葉を文字通りに受け取る
- 比喩や冗談、皮肉などが理解できず、言葉を文字通りに解釈してしまう傾向があります。例えば、「手が空いたらお願い」と言われると、本当に自分の手が物理的に空くまで、他の作業を続けてしまう、といったことがあります。
- 会話のキャッチボールが苦手
- 相手の話に合わせたり、関心のない話題を続けたりすることが苦手です。逆に、自分の興味のあることについては、相手の反応を気にせず、一方的に話し続けてしまうことがあります。相互のやり取りよりも、一方通行のコミュニケーションになりがちです。
特定の物事への強いこだわりや反復的な行動
興味の対象が、特定の分野に強く限定されていたり、決まった手順やルールにこだわったりする傾向が見られます。
- 限定された強い興味
- 電車、歴史、コンピューター、アニメなど、特定の分野に非常に強い興味を持ち、大人顔負けの専門的な知識を持っていることがあります。この興味は、仕事において大きな強みとなる可能性も秘めています。
- 同一性へのこだわり・ルーティン
- 毎日の通勤経路や、仕事の進め方、物の配置など、自分なりの手順やルールに強くこだわります。その手順が崩れたり、急な予定変更があったりすると、ひどく混乱し、強い不安を感じてしまいます。
- 感覚の過敏さ、または鈍麻さ
- 特定の感覚が、他の人よりも極端に敏感、あるいは鈍感なことがあります。例えば、「騒がしいオフィスのざわつきが耐えられない」「特定の照明がひどく眩しく感じる」「服のタグや素材の肌触りが我慢できない」といった感覚過敏は、日常生活や職場環境において大きなストレス要因となります。
併存症と二次障害について
アスペルガー症候群(ASD)のある方は、他の発達障害や精神疾患を併せ持つ「併存症」や、ストレスから別の問題が生じる「二次障害」を抱えることが少なくありません。
- 併存症
- ADHD(注意欠如多動症)や、学習障害(LD)、不安障害、うつ病などを併発していることがあります。
- 二次障害
- 周囲からの無理解や、失敗体験の積み重ねによる慢性的なストレスから、うつ病や不安障害、適応障害、依存症、ひきこもりなどを発症してしまうことです。二次障害の治療をきっかけに、根本の原因であるASDに気づくケースも多くあります。
アスペルガー症候群(ASD)の原因・診断・治療
アスペルガー症候群(ASD)は、どのように診断され、どのような治療や支援が行われるのでしょうか。
原因は生まれつきの脳機能の偏り
アスペルガー症候群(ASD)の原因は、親の育て方やしつけ、愛情不足などではなく、生まれつきの脳機能の何らかの偏りにあると考えられています。様々な研究から、遺伝的な要因が複雑に関与していることが分かってきています。決して、本人や家族のせいではありません。
診断は専門医による総合的な判断
診断は、精神科や心療内科の医師が、国際的な診断基準であるDSM-5などを用いて、慎重に行います。問診(現在の困りごと、生育歴など)、行動観察、心理検査(WAIS-IVなど)の結果を総合的に評価し、診断が下されます。
治療の目標は「特性との上手な付き合い方」の習得
アスペルガー症候群(ASD)は、生まれつきの特性であり、「完治させる」という概念の病気ではありません。そのため、治療や支援の目標は、特性そのものをなくすことではなく、本人が自身の特性と上手く付き合いながら、社会生活上の困難を軽減していくことに置かれます。
- 心理社会的治療
- 自分の特性を理解し、対人関係やコミュニケーションのスキルを学ぶ「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」や、不安やうつといった二次障害に対する「認知行動療法(CBT)」などが行われます。
- 環境調整
- 本人が過ごしやすいように、周囲の環境を調整することが非常に重要です。職場であれば、障害特性に合わせた「合理的配慮」を求めることがこれにあたります。
- 薬物療法
- ASDの核となる特性を直接改善する薬は、現在のところありません。ただし、併存しているADHDの症状や、二次障害であるうつ病、不安、衝動性、睡眠障害などを和らげる目的で、薬が処方されることがあります。
仕事の困りごとと、強みになること
アスペルガー症候群(ASD)の特性は、仕事において困難の原因となることもあれば、大きな強みとなることもあります。
得意なこと・苦手なことを整理する
まず大切なのは、自分の得意なことと苦手なことを客観的に把握し、それを踏まえた仕事選びや働き方を考えることです。
得意なこと・強みとなり得ることの例 | 苦手なこと・困難を感じやすいことの例 |
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特性を活かせる仕事・働き方
上記の特性から、以下のような仕事は能力を発揮しやすいと考えられます。
- 専門性や正確性が求められる仕事:プログラマー、研究者、経理、校正・校閲、データ入力、品質管理など。
- ルーティンワーク:決まった手順で進められる製造ラインの作業や、事務作業など。
逆に、高いコミュニケーション能力や臨機応変な対応が常に求められる営業職や接客業、複数の業務を同時に管理するマネジメント職などでは、困難を感じやすい傾向があります。
職場での具体的な工夫と合理的配慮
仕事上の困難を減らすためには、自分で行う工夫と、職場に協力を求める「合理的配慮」の両方が重要です。
- 自分で行う工夫(セルフマネジメント)
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- タスクの視覚化:To-Doリストや付箋を使い、やるべきことを書き出して管理する。
- 指示の確認:曖昧な指示は、「〇〇ということでよろしいでしょうか?」と具体的な言葉で確認する癖をつける。
- 感覚過敏対策:ノイズキャンセリングイヤホンや、ブルーライトカット眼鏡などを使用する。
- 職場に求める合理的配慮の例
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- 指示の明確化:指示は口頭だけでなく、メールやチャットなど文字で伝えてもらう。
- 環境調整:電話が少なく、人の出入りが少ない静かな席にしてもらう。パーテーションで作業スペースを区切ってもらう。
- 業務内容の調整:マルチタスクを避け、一つの業務に集中できるような役割分担にしてもらう。
これらの配慮を求めるためには、自身の障害特性を職場に開示して働く「オープン就労」という選択肢があります。
アスペルガー症候群(ASD)に関する主な相談先
一人で悩みを抱え込まず、専門の支援機関に相談することで、問題解決の糸口が見つかることがあります。
発達障害者支援センター
各都道府県・指定都市に設置されている、発達障害に関する総合的な相談窓口です。本人や家族からの相談に応じ、適切な情報提供や、医療・福祉・労働などの関係機関への紹介を行ってくれます。
障害者就業・生活支援センター
「なかぽつ」とも呼ばれ、就職に関する支援と、生活面の支援を一体的に行ってくれる身近な相談機関です。仕事探しだけでなく、就職後の職場定着支援や、生活リズムの安定に関する相談にも乗ってくれます。
ハローワーク
障害のある方のための専門援助窓口があり、専門の職員が求人紹介や就職相談に応じてくれます。障害に理解のある企業の求人情報も豊富にあります。
就労移行支援事業所
一般企業への就職を目指す障害のある方が、最長2年間、職業訓練やビジネスマナー、職場探し、就職後の定着支援まで、トータルでサポートを受けられる福祉サービスです。
自分の得意を活かした働き方を探すなら 就労継続支援B型事業所オリーブへ
「いきなり企業で働くのは、まだ自信がない」「コミュニケーションの少ない環境で、まずは働くことに慣れたい」。そんな、自分のペースで、得意なことを活かしながら社会参加への一歩を踏み出したいあなたに、私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」という選択肢があります。オリーブは、大阪、兵庫、京都、奈良の関西エリアで、障害のある方が安心して働ける場所を提供しています。アスペルガー症候群(ASD)の特性を持つ方が、その強みを活かせるような環境を整えています。
- 明確で具体的な仕事
- データ入力や軽作業、Webライティングなど、手順が明確で、一人で集中して取り組める仕事が中心です。曖昧な指示はありません。
- 安心できる環境
- 過度な雑談は必要なく、静かな環境で、自分のペースで作業に没頭できます。感覚過敏に配慮した環境調整も相談可能です。
- 無理のないスタート
- 雇用契約を結ばないため、週1日、1日1時間といったごく短い時間から利用を開始し、体調や目標に合わせて徐々に慣れていくことが可能です。
あなたの「こだわり」や「集中力」は、大きな力になります。その力を安心して発揮できる場所で、新しい一歩を踏み出してみませんか。ご本人だけでなく、ご家族からの見学や相談も随時受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。