ASD(自閉スペクトラム症)に向いている仕事は?特性を活かした適職探しのコツ

ASD(自閉スペクトラム症)の診断を受け、「自分に合った仕事が見つからない」「今の仕事で、対人関係や臨機応変な対応に困難を感じている」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。周りからは「空気が読めない」「こだわりが強い」と誤解され、働くことに自信を失ってしまうこともあるかもしれません。
しかし、ASDの特性は、環境や職種によっては他の人にはない大きな「強み」になります。ご自身の特性を正しく理解し、それを活かせる仕事を選ぶことが、あなたらしく、そして長く働き続けるための鍵です。
この記事では、ASDの特性が仕事でどのように強み・苦手として現れるのかを深く掘り下げ、向いている仕事の具体的な例や、適職を見つけるための重要なポイント、頼りになる支援機関について、分かりやすくご紹介します。
仕事で活かせるASD(自閉スペクトラム症)の強み・特性
ASDの特性は、一見すると弱みに感じられることもありますが、仕事の場面では優れた能力として発揮されることが少なくありません。
論理的思考と分析力
ASDのある方は、物事を主観や感情に流されず、客観的かつ論理的に捉えることを得意とする傾向があります。事実に基づいて冷静に判断ができるため、膨大なデータの中から法則性を見つけ出したり、複雑なシステムの構造やルールの矛盾点を的確に見抜いたりする能力に長けています。この特性は、プログラミング、データ分析、法務、品質管理など、論理性が求められる分野で大きな強みとなります。
高い集中力と探究心
ASDの特性の一つに、興味を持った特定の分野に対して、驚異的な集中力を発揮することがあります。周囲の雑音や他の出来事が気にならなくなるほど没頭し、一つのことを深く掘り下げて探究できます。この「過集中」とも呼ばれる特性は、専門的な知識やスキルが求められる仕事において、高いパフォーマンスを発揮する原動力となります。
正確性や几帳面さ
ルールや手順に忠実で、決められたことを正確にこなすことを得意とする方が多いです。曖昧なことを嫌い、白黒はっきりさせたいという特性が、仕事においては「几帳面さ」「真面目さ」「誠実さ」として現れます。細部までこだわり、ミスなく作業を遂行する能力は、品質管理や経理・財務、校正・校閲など、正確性が第一に求められる仕事で高く評価されます。
ASD(自閉スペクトラム症)の特性による仕事での苦手
一方で、ASDの特性が原因で、仕事の場面で困難さを感じることもあります。これらの苦手なことを理解し、避ける工夫をしたり、配慮を求めたりすることが、長く働き続けるためには不可欠です。
臨機応変な対応
ASDのある方は、急な予定変更や、マニュアルにないイレギュラーな対応を苦手とする傾向があります。事前に決めた手順やルール通りに物事を進めることで安心感を得るため、想定外の事態が起こると混乱し、どう対処して良いか分からなくなってしまうことがあります。顧客からのクレーム対応や、頻繁に業務内容が変わる仕事は、大きなストレスになる可能性があります。
対人コミュニケーション
相手の表情や声のトーンから感情を読み取ったり、言葉の裏にある意図(社交辞令、皮肉など)を汲み取ったりといった、非言語的なコミュニケーションが苦手な場合があります。そのため、休憩中の雑談や世間話の輪に入るのが難しく、職場で孤立感を感じたり、「空気が読めない」「自分勝手だ」と誤解されたりすることがあります。高い共感性や柔軟な対人スキルが求められる接客業や営業職などは、困難を感じやすいかもしれません。
感覚過敏による影響
特定の音、光、におい、感触などに対して、非常に敏感な「感覚過敏」の特性を持つ方がいます。
- 聴覚過敏
- オフィスの電話の音や、人の話し声、キーボードの音などが全て同じ大きさで聞こえてしまい、仕事に集中できない。
- 視覚過敏
- 蛍光灯の光が眩しすぎて目が痛くなる、人の多い場所では視界に入る情報量が多すぎて疲弊する。
- 嗅覚過敏
- 同僚の香水や柔軟剤のにおいで気分が悪くなる。
- 触覚過敏
- 制服の素材が肌に合わず、強い苦痛を感じる。
このような特性があると、多くの人が問題なく過ごせる職場環境であっても、本人にとっては心身ともに疲れ果ててしまう過酷な場所になり得ます。
ASD(自閉スペクトラム症)の方に向いている仕事・職業の例
ASDの「得意」を活かし、「苦手」を避けやすい仕事には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、具体的な職種の例をいくつか紹介します。
ITエンジニア・プログラマー
プログラミングは、決められたルールに沿って、論理的にシステムを組み立てていく仕事です。ASDの持つ論理的思考力、正確性、そして一つの作業に没頭できる集中力が非常に活かされやすい職種と言えます。リモートワークが可能な場合も多く、自分のペースで作業に集中できる環境を整えやすいです。
Webデザイナー・Webライター
Webデザイナー:デザインのルールや、クライアントの要望という明確なゴールに向かって、黙々と作業を進めることができます。視覚的な情報処理が得意な方や、細部へのこだわりが強い方に向いています。
Webライター:特定のテーマについて深く調べ、情報を整理し、論理的に文章を構成する能力が求められます。自分の興味のある分野であれば、探究心と知識を大いに活かすことができます。
研究職・分析職
研究職:自分の興味のある分野を、とことん深く探究することができます。高い集中力と探究心が、新しい発見や技術開発につながります。
データアナリスト:膨大なデータの中からパターンや法則性を見つけ出し、分析する仕事です。客観的な事実に基づいて論理的に思考する力が求められ、ASDの特性と非常に相性が良いと言えます。
事務職・経理
経理:会社の収支をルール通りに正確に記録・管理する仕事です。几帳面さや、数字を正確に扱う能力が活かせます。
一般事務:データ入力や書類作成、ファイリングなど、定型的な業務が中心の事務職も向いています。ただし、電話応対や来客対応が多い職場は、コミュニケーションの負担が大きくなる可能性があるため、業務内容をよく確認することが大切です。
その他、特性を活かせる可能性がある職業
- 図書館司書・アーキビスト
- 膨大な情報をルールに沿って分類・整理・管理する仕事は、几帳面さや正確性を活かせます。
- 製造・品質管理
- 決められた手順に従って、正確に製品を組み立てたり、製品に傷や不備がないか細かくチェックしたりする仕事は、集中力と正確性が求められます。
- 動植物関連の仕事
- 飼育員やトリマー、造園業など、言葉でのコミュニケーションよりも、観察力や丁寧な作業が重視される仕事も選択肢の一つです。
ASDの方が適職を見つけるためのポイント
自分に合った仕事を見つけ、長く働き続けるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
自分の得意・不得意と特性を把握する
まずは、自分自身の「取扱説明書」を作ることが大切です。「どんなことが得意か?」「どんなことが苦手か?」「どんな刺激に敏感か?」などを客観的に把握することで、自分に合う仕事や職場環境の条件が明確になります。一人で考えるのが難しい場合は、家族や、後述する支援機関のスタッフなど、第三者の視点を取り入れるのも有効です。
「オープン就労」か「クローズ就労」かを選択する
適職探しにおいては、自分の障害について企業に開示するかどうかを決める必要があります。
- オープン就労
- 障害があることを伝えた上で、主に障害者雇用枠で就職する方法です。最大のメリットは、企業から障害特性に応じた「合理的配慮」を受けられることです。デメリットとしては、求人数や職種の幅が一般雇用に比べて限られる場合があります。
- クローズ就労
- 障害があることを伝えず、一般雇用枠で就職する方法です。職種の選択肢は広いですが、職場で困難が生じても、障害を理由とした配慮を求めることが難しく、一人で抱え込みがちになるリスクがあります。
どちらが良いかは一概には言えません。自分の求める働き方や必要な配慮の度合いを考え、支援機関とも相談しながら慎重に決めましょう。
職場に合理的配慮を相談する
オープン就労の場合、企業に「合理的配慮」を求めることができます。自分に合わない環境で無理に頑張るのではなく、環境の方を自分に合わせてもらう、という発想も重要です。
伝え方の例: (×)「指示が分かりません」→(○)「口頭での指示は忘れてしまうことがあるので、チャットやメモで箇条書きにしていただけると助かります」
このように、具体的な困りごとと、どうすれば解決できるか(代替案)をセットで伝えることで、建設的な話し合いができます。
仕事での困りごとへの対処法を身につける
セルフケアとして、自分でできる対処法(コーピング)を身につけておくことも大切です。
困りごと | 具体的な対処法の例 |
---|---|
曖昧な指示が分からない | ・5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を意識して質問し、指示内容を明確にする。 ・指示された内容を、自分の言葉で復唱して確認する。「〇〇という理解で合っていますか?」 |
急な予定変更でパニックになる | ・変更があり得ることを、あらかじめ念頭に置いておく。 ・変更があった際は、一度席を外すなどして、気持ちを落ち着かせる時間をもらう。 |
感覚過敏で疲弊する | ・ノイズキャンセリングイヤホンや、ブルーライトカット眼鏡などを活用する。 ・昼休みは静かな場所で一人で過ごすなど、意識的に感覚を休ませる時間を作る。 |
タスク管理ができない | ・To-Doリストやスケジュールアプリを使い、やるべきことや手順を「見える化」する。 ・大きな仕事は、小さなタスクに分解して、一つずつ終わらせていく。 |
仕事探しで利用できる支援機関
一人で仕事探しをするのが不安な場合は、専門の支援機関を頼ることができます。
- ハローワーク
- 障害のある方向けの専門の窓口があり、豊富な求人情報の提供のほか、障害の特性に応じた職業相談、応募書類の添削や模擬面接など、幅広いサポートを無料で受けられます。
- 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
- 障害のある方の「就業面」と「生活面」を一体的に支援してくれる身近な相談窓口です。
- 地域障害者職業センター
- ハローワークや医療機関と連携しながら、一人ひとりに合った専門的な職業リハビリテーションを提供します。
- 就労移行支援事業所
- 一般企業への就職を目指す障害のある方が、最長2年間、職業スキルを身につけるためのトレーニングや、就職活動のサポートを受けられる通所型の福祉サービスです。
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