アスペルガー症候群に向いている仕事は?特徴を活かす働き方と対処法を解説

「真面目に仕事に取り組んでいるのに、なぜか人間関係でつまずいてしまう」「『空気が読めない』『融通が利かない』と言われ、働くことに自信をなくしてしまった」。もし、あなたがこのような悩みを抱えているなら、それはアスペルガー症候群の特性によるものかもしれません。
人間関係のストレスで仕事が長続きせず、働くこと自体に不安を感じていませんか。しかし、アスペルガー症候群の特性は、決して弱みだけではありません。その特性は、環境や職種によっては、他の誰にも真似できない、非常に優れた「強み」となり得るのです。
この記事では、アスペルガー症候群の特性が仕事でどのように強み・苦手として現れるのかを解説し、向いている仕事の具体的な例や、適職を見つけるための重要なポイント、そして頼りになる支援機関について、分かりやすくご紹介します。
アスペルガー症候群の仕事における特徴(強み・苦手)
アスペルガー症候群とASD(自閉スペクトラム症)
はじめに、非常に重要な点として、現在「アスペルガー症候群」は、医学的な診断名としては使われていません。アメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』では、「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断名に統合されています。一般的に、ASDの中でも、知的発達や言語発達の遅れがないタイプが、かつてのアスペルガー症候群に該当すると考えられています。この記事では、便宜上「アスペルガー症候群」という言葉も用いて解説します。
アスペルガー症候群(ASD)の主な特徴は、以下の3つです。
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- 対人関係や社会的コミュニケーションの特性:相手の気持ちを察したり、場の空気を読んだりすることが苦手。
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- 特定の物事への強いこだわりや興味:興味のあることへの驚異的な集中力や、決まった手順・ルールへのこだわり。
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- 感覚の過敏さまたは鈍麻さ:特定の音や光、匂いなどに非常に敏感、あるいは鈍感である。
仕事での強みとなる特性
アスペルガー症候群の特性は、仕事の場面では大きな強みとして発揮されることが少なくありません。
驚異的な集中力と探究心
興味のある特定の分野に対して、周りの音が聞こえなくなるほど没頭し、驚異的な集中力(過集中)を発揮することがあります。この探究心の深さは、専門的な知識やスキルが求められる仕事において、その分野の第一人者となり得るほどの、非常に大きな武器となります。
論理的思考力と分析能力
物事を主観や感情に流されず、客観的かつ論理的に捉えることを得意とします。事実に基づいて冷静に判断ができるため、膨大なデータの中から法則性を見つけ出したり、システムの構造やルールの矛盾点を的確に見抜いたりする能力に長けています。
誠実さとルール遵守意識
一度決めたルールや手順は、忠実に守ろうとする真面目さ、誠実さを持っています。「手を抜く」「ごまかす」といったことがなく、任された仕事は責任を持って正確にやり遂げようとします。この特性は、職場での信頼につながります。
記憶力の高さ
興味のあることに関しては、驚くほど詳細な情報を記憶していることがあります。数字やデータ、専門用語、過去の出来事などを正確に記憶する能力は、データベース管理や研究、品質管理などの分野で高く評価されます。
仕事での悩みとなりやすい特性
一方で、アスペルガー症候群の特性が原因で、仕事の場面で困難さを感じることもあります。
対人関係・コミュニケーションの難しさ
相手の表情や声のトーンから感情を読み取ったり、「言外の意図」を汲み取ったりすることが苦手な場合があります。例えば、相手の「検討します(=断り)」という言葉を額面通りに受け取ってしまったり、雑談の輪に入れず孤立してしまったりすることがあります。「空気が読めない」「失礼だ」と誤解され、人間関係でつまずきやすい傾向があります。
臨機応変な対応の苦手さ
事前に決めた手順やルール通りに物事を進めることで安心感を得るため、急な予定変更や、マニュアルにないイレギュラーな対応を苦手とします。複数のタスクを同時にこなす「マルチタスク」も、頭が混乱しやすく、大きなストレスの原因となります。
感覚の過敏さによる疲労
特定の音、光、におい、感触などに対して、非常に敏感な「感覚過敏」の特性を持つ方がいます。例えば、多くの人が気にならないオフィスの電話の音や蛍光灯の光、同僚の香水の匂いなどが、本人にとっては耐えがたい苦痛となり、仕事に集中できないだけでなく、一日が終わると心身ともに疲れ果ててしまう原因となります。
アスペルガー症候群の方に向いている仕事を探すコツ
自己分析で得意・不得意を把握する
まずは、自分自身の「取扱説明書」を作ることが、適職探しの第一歩です。
- 得意なこと・好きなこと:どんな作業なら時間を忘れて集中できるか?
- 苦手なこと・ストレスを感じること:どんな状況でパニックになるか?
- 理想の職場環境:静かな環境か、活気のある環境か?
これらの項目に加え、これまでの職務経歴やアルバイト経験を棚卸しすることも有効です。「うまくいった仕事」と「続かなかった仕事」をリストアップし、「なぜうまくいったのか(例:マニュアルが明確だったから)」「なぜ続かなかったのか(例:電話応対が多かったから)」と理由を分析してみましょう。こうした過去の経験の中に、あなたの適職を見つけるヒントが隠されています。客観的に自分を見つめ直すことで、目指すべき仕事の方向性や、職場に求める条件が明確になります。
障害者雇用で働くことを検討する
アスペルガー症候群(ASD)の診断を受けている場合、「障害者雇用」という働き方も有力な選択肢となります。そのためには、まず「精神障害者保健福祉手帳」を取得することが一般的です。手帳を取得することで、障害者雇用枠への応募が可能になります。
- オープン就労
- 障害があることを伝えた上で、主に障害者雇用枠で就職する方法です。最大のメリットは、企業から障害特性に応じた「合理的配慮」を受けられることです。苦手な業務を免除してもらったり、働きやすい環境を整えてもらったりと、安定して働きやすくなります。
- クローズ就労
- 障害があることを伝えず、一般雇用枠で就職する方法です。職種の選択肢は広いですが、職場で困難が生じても、障害を理由とした配慮を求めることが難しく、一人で抱え込んでしまうリスクがあります。
どちらが良いかは一概には言えません。自分の求める働き方や必要な配慮の度合いを考え、支援機関とも相談しながら慎重に決めましょう。
支援機関を活用する
自分一人で適職を探すのが難しいと感じたら、専門家の力を借りることが非常に有効です。後述するハローワークや就労移行支援事業所などの支援機関は、あなたの特性を理解し、あなたに合った仕事探しをサポートしてくれます。
仕事を続けるための工夫と対処法
就職後、仕事を長く続けるためには、日々の工夫や対処法を身につけることが重要です。
苦手なことへの対処法や周囲のサポートを検討する
自分の苦手パターンを理解し、具体的な対処法を考え、実践してみましょう。
場面別の困りごと | 具体的な対処法(セルフケアと合理的配慮の例) |
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曖昧な指示が分からない | ・5W1Hを意識して質問し、指示内容を明確にする。 ・指示内容を自分の言葉で復唱して確認する。 ・(合理的配慮)指示は口頭だけでなく、チャットやメールで箇条書きにしてもらう。 |
マルチタスクが苦手 | ・To-Doリストを作成し、一つの作業が終わってから次に取り掛かる「シングルタスク」を徹底する。 ・作業の優先順位が分からない場合は、上司に相談して決めてもらう。 ・(合理的配慮)複数の業務が重ならないよう、業務量を調整してもらう。 |
会議での雑談が苦手 | ・事前にアジェンダに関係する質問や意見を一つ考えておく。 ・無理に話さず、聞き役に徹してうなずく。 ・(合理的配慮)会議での発言は、事前にテキストで共有しておくことを許可してもらう。 |
感覚過敏で疲れる | ・ノイズキャンセリングイヤホンや、ブルーライトカット眼鏡などを活用する。 ・昼休みは静かな場所で一人で過ごす。 ・(合理的配慮)電話の少ない静かな席にしてもらう、照明の明るさを調整してもらう。 |
急な予定変更でパニックになる | ・変更があり得ることを、あらかじめ念頭に置いておく。 ・変更があった際は、一度席を外すなどして、気持ちを落ち着かせる時間をもらう。 ・(合理的配慮)可能な限り、早めに変更の可能性を伝えてもらう。 |
特性や強みを活かせる仕事の進め方を考える
自分の強みを意識的に仕事に活かす工夫も大切です。
- 集中力を活かす
- 「この時間は集中してデータ分析をするので、話しかけないでください」とあらかじめ周囲に伝えておく。
- 論理性を活かす
- 業務マニュアルの改善点や、非効率な作業フローについて、具体的なデータや根拠を示して提案してみる。
- 記憶力を活かす
- 自分が得意な情報(過去のデータや製品仕様など)を整理し、チーム内で共有する役割を担う。
職場の相談窓口を活用する
多くの企業には、人事部や、専門の相談員が配置された相談窓口があります。一人で抱え込まず、仕事上の悩みや、必要な配慮について相談してみましょう。その際、ただ「困っています」と伝えるだけでなく、「〇〇という特性のため、△△という場面で困難を感じています。つきましては、□□のような配慮をいただけないでしょうか」と具体的に伝えることが重要です。事前に困りごとの具体例と希望する配慮をメモにまとめておくと、冷静に話し合いを進めることができます。産業医や保健師に相談するのも良い方法です。
仕事探しに活用できる支援機関
一人で仕事探しをするのが不安な場合は、専門の支援機関を頼ることができます。
- ハローワーク
- 障害のある方向けの専門の窓口「専門援助部門」があり、豊富な求人情報の提供のほか、障害の特性に応じた職業相談、応募書類の添削や模擬面接など、幅広いサポートを無料で受けられます。
- 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
- 障害のある方の「就業面」と「生活面」を一体的に支援してくれる身近な相談窓口です。
- 就労移行支援事業所
- 一般企業への就職を目指す障害のある方が、最長2年間、職業スキルを身につけるためのトレーニングや、就職活動のサポートを受けられる通所型の福祉サービスです。ビジネスマナーやPCスキル、コミュニケーションスキルなどを学び、企業での実習を通じて、実践的な経験を積んだ上で就職活動に臨むことができます。
自分の特性に合った働き方を相談できる 就労継続支援B型事業所オリーブへ
様々な仕事の例や支援機関を知っても、「すぐに一般企業で働くのはまだ不安」「まずは自分のペースで、得意なことや好きなことを仕事にする練習がしたい」と感じる方もいらっしゃるでしょう。一般企業での複雑な人間関係や、目まぐるしい変化についていくことに疲れ果てていませんか?
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