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ADHDと仕事|無理なく続けるためのコツと利用できる支援制度を解説

「集中力が続かず、ケアレスミスを繰り返してしまう」「会議中にじっとしているのが苦痛」「ついカッとなって、余計な一言を言ってしまう」。ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つ方の中には、このような悩みが原因で、仕事が長続きせずに悩んでいる方が少なくありません。

周りからは「やる気がない」「協調性がない」と誤解され、自分を責めてしまうこともあるでしょう。何度注意されても同じミスを繰り返してしまい、自己嫌悪に陥ったり、「自分は社会人として失格だ」と、将来に希望が持てなくなったりしていませんか?

しかし、その困難さは、あなたの性格や努力不足が原因ではありません。ADHDの特性を正しく理解し、ご自身に合った工夫や環境を選ぶことで、無理なく働き続けることは可能です。この記事では、ADHDの特性による仕事の悩みと、それを乗り越えるための具体的なコツ、そしていざという時に頼りになる支援制度や相談先を、網羅的に分かりやすく解説します。

ADHD(注意欠如多動症)の特性による仕事の悩み

ADHDの主な特徴である「不注意」「多動性」「衝動性」は、仕事の様々な場面で困難を引き起こすことがあります。

「不注意」による困りごと(ミス・抜け漏れなど)

「不注意」とは、注意を持続させたり、適切に切り替えたりすることが難しい特性です。これにより、以下のような困りごとが生じやすくなります。

ケアレスミスが多い
書類の誤字脱字や計算間違いなど、確認作業が苦手で、簡単なミスを繰り返してしまいます。

 

忘れ物・なくし物が多い
仕事で使う資料や備品などをどこに置いたか忘れてしまったり、紛失したりすることが頻繁にあります。

 

タスク管理が苦手
複数の業務を抱えると、何から手をつければ良いか分からず混乱してしまいます。優先順位付けが苦手なため、常に締め切りに追われがちです。

 

集中力が続かない
会議中や重要な指示を受けている最中でも、他のことに気を取られてしまい、話の内容が頭に入ってきません。

 

段取り・計画が苦手
仕事の全体像を把握し、ゴールから逆算して計画を立てることが困難な場合があります。行き当たりばったりで作業を進めた結果、後工程で問題が発生したり、締め切りに間に合わなくなったりします。

 

「多動性・衝動性」による困りごと(貧乏ゆすり・失言など)

「多動性」は落ち着きのなさ、「衝動性」は思いつきで行動してしまう特性を指します。大人になると、子どもの頃のように走り回ることはなくても、以下のような形で現れます。

じっとしていられない
会議中など、長時間座っている場面で、貧乏ゆすりをしたり、そわそわ体を動かしたりしてしまい、「落ち着きがない」という印象を与えてしまいます。

 

過度なおしゃべり・失言
思ったことをすぐに口に出してしまい、相手が話しているのを遮ってしまったり、不用意な発言で相手を傷つけたりすることがあります。

 

見切り発車で行動する
指示を最後まで聞かずに思い込みで行動してしまい、結果的に大きなミスにつながることがあります。

 

感情の起伏
些細なことでカッとなったり、イライラしたりと感情のコントロールが苦手な側面があり、これが対人関係の緊張を高めることがあります。

 

退屈な作業への強い苦痛
単純作業や興味の持てないルーティンワークを続けることに強い苦痛を感じます。集中力が極端に低下し、ミスが増えたり、別のことを始めてしまったりする原因となります。

 

二次障害のリスク

ADHDの特性による失敗体験が積み重なり、職場で繰り返し叱責されたり、孤立したりすることで、強いストレスにさらされ続けることがあります。その結果、本来のADHDの特性に加えて、うつ病や不安障害、適応障害、依存症(アルコール、買い物など)といった、別の精神疾患を発症してしまうことがあります。これを「二次障害」と呼びます。二次障害を発症すると、治療がより複雑になるため、困難を感じたら早期に専門機関に相談することが非常に重要です。

ADHDの特性が仕事の強みになることも

一方で、ADHDの特性は、環境や職種によっては大きな「強み」として発揮されることがあります。

独創性・発想力
常識にとらわれないユニークなアイデアや、斬新な解決策を生み出す力があります。企画職、デザイナー、商品開発などの仕事で才能を発揮することがあります。

 

決断力・行動力
思い立ったらすぐに行動に移せるフットワークの軽さがあります。スピード感が求められる営業職や、突発的な事態への対応が必要な救急医療、あるいは起業家などに向いている場合があります。

 

過集中(ハイパーフォーカス)
自分が興味を持った特定の分野に対しては、寝食を忘れるほど没頭し、驚異的な集中力を発揮することがあります。研究者、プログラマー、エンジニアなど、専門知識を深く追求する仕事で高いパフォーマンスを見せることがあります。

 

ADHDの方が仕事を無理なく続けるためのコツ

ADHDの特性とうまく付き合いながら仕事を続けるためには、自分を責めるのではなく、具体的な対策を立てることが重要です。

自分の特性や困りごとを把握する

まずは、自分自身のADHDの特性を客観的に理解することが第一歩です。過去の職務経歴やアルバイト経験を棚卸し、「うまくいった仕事」と「続かなかった仕事」をリストアップしてみましょう。そして、「なぜうまくいったのか(例:裁量が大きく、自分のペースで進められたから)」「なぜ続かなかったのか(例:細かい確認作業が多く、ミスが許されない環境だったから)」と理由を分析します。この作業を通じて、自分の「取扱説明書」が明確になり、必要な対策や環境が見えてきます。

働き方を選択する(オープン就労・クローズ就労)

仕事を探す、または続ける上で、自身の障害について職場に開示するかどうかは大きな選択です。

オープン就労
障害があることを職場に開示して働く方法です。主に障害者雇用枠での就職となります。最大のメリットは、後述する「合理的配慮」を受けやすく、特性への理解を得ながら働けることです。デメリットは、求人数や職種の幅が一般雇用に比べて限られる場合があることです。

 

クローズ就労
障害を非開示にして、一般雇用枠で働く方法です。職種の選択肢は広いですが、困難が生じても配慮を求めにくく、一人で抱え込みがちになるリスクがあります。

 

どちらが良いかは一概に言えません。必要な配慮の度合いやご自身の状況を考え、支援機関とも相談しながら慎重に決めましょう。

困りごとに対する自己対処法を実践する

自分の特性が分かったら、それに対する具体的な工夫(セルフケア)を実践してみましょう。

困りごと 具体的な対処法
タスクの抜け漏れ・忘れ ・やるべきことは全てタスク管理アプリや手帳に書き出す。
・特に重要なことは、PCのモニターに付箋を貼る。
集中力が続かない ・ポモドーロ・テクニック(25分作業+5分休憩)を試す。
・ノイズキャンセリングイヤホンを使い、外部の音を遮断する。
段取り・計画が苦手 ・大きなタスクは、具体的な小さな作業(ステップ)に分解してリスト化する。
・似たような作業はテンプレートやマニュアルを作成し、思考の負担を減らす。
衝動的な発言 ・何か言いたくなったら、心の中で「6秒」数えてから話す。
・会議などでは、発言したいことを一度メモに書き出してから話す。
時間管理が苦手 ・全ての予定にリマインダーを設定する。
・作業にかかる時間を、実際にかかった時間と共に記録し、見積もりの精度を上げる。
整理整頓ができない ・全ての物に定位置を決める(ラベリングする)。
・一日の終わりに5分間だけ、机の上をリセットする時間を作る。

 

職場に合理的配慮を相談する

自分一人の工夫だけでは解決が難しい場合は、職場に相談し、協力をお願いすることも大切です。障害者手帳を取得しオープン就労している場合、企業に「合理的配慮」を求めることが法律で定められています。手帳がない場合でも、相談に応じてもらえる可能性はあります。相談する際は、直属の上司だけでなく、人事部や産業医、社内の相談窓口なども活用しましょう。

指示の出し方
口頭だけでなく、チャットやメールなど、文字で指示をもらう。

 

業務の進め方
一度に複数の指示をせず、一つずつタスクを依頼してもらう。ダブルチェックの体制を作ってもらう。

 

作業環境
集中力が必要な作業は、パーテーションで区切られた静かな席で行うことを許可してもらう。

 

勤務条件
通院のための休暇や、ラッシュを避けた時差出勤などを認めてもらう。

 

休職や退職時に利用できる支援制度

ADHDの特性が原因で心身のバランスを崩した場合に、生活を支えてくれる公的な制度を知っておくことは非常に重要です。

自立支援医療制度(精神通院医療)

ADHDの治療で継続して通院する場合、医療費の自己負担を原則1割に軽減できる制度です。お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で申請します。

精神障害者保健福祉手帳

ADHDと診断された方は申請・取得できる場合があります。手帳を持つことで、障害者雇用枠での就職や、税金の控除、公共料金の割引など、様々な支援を受けられるようになります。

傷病手当金

在職中の方が、病気やけがで会社を休み、給与が支払われない場合に、加入している健康保険から給与のおおむね3分の2が最長で1年6ヶ月間支給されます。

雇用保険の基本手当(失業給付)

離職後に、次の仕事を見つけるまでの間の生活を支える給付です。「就職困難者」に認定されると、一般の離職者よりも給付を受けられる日数が長くなる場合があります。

障害年金

病気やけがによって、生活や仕事が著しく制限される場合に受け取ることができる年金です。ADHDの症状や二次障害によって労働に大きな支障が出ていると認められれば、現役世代でも受給できる可能性があります。

就職・適職探しで頼れる支援機関

自分に合った仕事や働き方を見つけるために、専門の支援機関を頼ることも有効な手段です。

障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
障害のある方の「就業面」と「生活面」を一体的に支援してくれる身近な相談窓口です。

 

地域障害者職業センター
ハローワークなどと連携しながら、専門的な職業リハビリテーションを提供します。職業能力の評価や、復職支援(リワーク支援)、職場への定着支援(ジョブコーチ派遣など)を行っています。

 

ハローワーク
障害のある方向けの専門の窓口があり、豊富な求人情報の提供のほか、応募書類の添削や模擬面接など、幅広いサポートを無料で受けられます。

 

就労移行支援事業所
一般企業への就職を目指す障害のある方が、最長2年間、職業スキルを身につけるためのトレーニングや、就職活動のサポートを受けられる通所型の福祉サービスです。

 

働くことから始めたい方は就労継続支援B型事業所オリーブへ

様々な工夫や支援制度を知っても、「すぐに企業で働くのはまだ不安」「まずは自分のペースで働くことに慣れたい」と感じる方もいらっしゃるでしょう。そのように感じるなら、焦る必要はありません。

「就労継続支援B型事業所オリーブ」は、そのような方が自分のペースで「働く」ことを通じて、自信と生活リズムを取り戻すための場所です。雇用契約を結ばないため、ノルマや厳しい納期に追われることなく、週1日・短時間からでも利用できます。データ入力や軽作業、創作活動など、あなたの興味や関心、そしてその日の体調に合わせて、無理なく仕事に取り組むことができます。

ADHDの特性は、あなたの個性であり、強みにもなり得ます。オリーブで、ご自身の得意なことや、集中できる環境を見つけ、自分らしい働き方を探してみませんか。ぜひ一度、お近くのオリーブへ見学・相談にお越しください。

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