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広汎性発達障害(PDD)の仕事の悩みと対処法|利用できる支援も解説

広汎性発達障害(PDD)のある方は、特定の分野で高い集中力や正確性を発揮するなど、優れた能力を持つ一方で、コミュニケーションや予期せぬ変化への対応が苦手なため、仕事で特有の悩みを抱えることがあります。その特性が周囲から理解されにくく、「仕事が続かない」「職場で孤立してしまう」と一人で苦しんでいる方も少なくありません。

しかし、仕事での困難は、決してあなたの努力不足が原因ではありません。広汎性発達障害(PDD)の特性を正しく理解し、ご自身に合った対処法や環境を見つけることで、悩みは大きく軽減できます。

この記事では、広汎性発達障害(PDD)のある方が抱えやすい仕事の悩みやその対処法、そして特性を活かせる仕事の探し方、休職や離職をした際に利用できる支援制度まで、網羅的に解説します。あなたらしく、安心して働き続けるためのヒントがきっと見つかるはずです。

はじめに:広汎性発達障害(PDD)と自閉スペクトラム症(ASD)

診断名の変遷について

「広汎性発達障害(PDD:Pervasive Developmental Disorders)」とは、かつて用いられていた発達障害の診断名の一つです。これには、自閉症やアスペルガー症候群などが含まれていました。しかし、2013年に改訂されたアメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』では、これらの障害は共通した特性を持つ連続体(スペクトラム)であると捉えられ、「自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)」という診断名に統合されました。現在、医療機関で新たに診断される場合は「自閉スペクトラム症(ASD)」と告げられることがほとんどです。しかし、以前にPDDと診断された方や、その名称に馴染みのある方も多いため、本記事では「広汎性発達障害(PDD)」という表現も用いて解説します。

広汎性発達障害(PDD)のある方が仕事で抱えやすい悩み

①一つの仕事にのめり込みすぎる(過集中)

広汎性発達障害(PDD)のある方は、興味のある特定の事柄に対して、驚くほどの集中力(過集中)を発揮することがあります。これは、一つの作業を高いクオリティで仕上げる強みになる一方、悩みにつながるケースも少なくありません。

例えば、以下のような状況が挙げられます。

  • 一つの作業に没頭するあまり、他の重要な業務を忘れてしまう
  • 時間配分がうまくできず、定時までに仕事が終わらない
  • こだわりが強すぎて、完璧を求めるあまりに仕事のペースが遅くなる
  • 周囲から声をかけられても気づかず、チームワークを乱していると誤解される

このように、高い集中力という長所が、時として業務全体のバランスを崩す原因となってしまうのです。

②あいまいな指示の理解が難しい

言葉を文字通りに受け取る傾向があるため、日本の職場で多用されがちな「あいまいな表現」や「空気を読む」ことを前提としたコミュニケーションに困難を感じることがあります。

例えば、上司から「これ、いい感じにまとめておいて」「なるべく早くお願い」といった指示を受けた場合、具体的なゴールが分からず混乱してしまいます。「いい感じ」が何を指すのか、「なるべく」がいつまでなのかを正確に読み取ることが難しいためです。

結果として、意図と違う成果物になってしまったり、作業に取りかかれずに固まってしまったりすることで、「仕事ができない」「指示を理解しない」といった不本意な評価につながることがあります。

③予期せぬ事態への対応が苦手

決まった手順やスケジュールに沿って行動することを得意とする一方で、想定外の出来事や急な変更に対して、臨機応変に対応することが苦手な場合があります。

例えば、以下のような状況です。

  • 業務の途中で、急に別の緊急の仕事を頼まれるとパニックになる
  • いつもと違う手順を求められたり、マニュアルが変更されたりすると頭が真っ白になる
  • 交通機関の遅延や担当者の急な休みといったトラブルに、どう対処すれば良いか分からなくなる

決まったパターンを大切にするという特性が、変化の多い職場環境では、強いストレスや不安の原因となってしまうのです。

④感覚の過敏さ(感覚過敏)による疲労

特定の感覚が非常に敏感である「感覚過敏」も、仕事上の悩みの大きな要因となり得ます。多くの人が気にならないような職場の環境音が、耐えがたい騒音に感じられることがあります。

具体的には、以下のような例が挙げられます。

  • パソコンのキーボードを叩く音や電話の着信音が大きく聞こえ、集中できない
  • 蛍光灯の光が眩しすぎて、目が疲れたり頭痛がしたりする
  • 同僚の香水や、オフィス内の様々な匂いが気になって気分が悪くなる

これらの感覚的な苦痛は、周囲に理解されにくく、「我慢が足りない」「神経質だ」と誤解されることもあり、知らず知らずのうちに心身のエネルギーを消耗してしまいます。

仕事の悩みを軽減するための具体的な対処法

タイマー活用などによる時間管理

一つの仕事にのめり込みすぎる「過集中」への対策として、物理的に時間を区切ることが有効です。スマートフォンやキッチンタイマーを使い、「この作業は45分まで」と決め、時間になったら強制的に作業を切り替える習慣をつけましょう。

「25分集中して5分休憩」を繰り返す「ポモドーロ・テクニック」も、集中と休憩のメリハリをつけ、過集中を防ぐのに役立ちます。また、1日の初めに「To-Doリスト」を作成し、やるべき業務と時間配分を可視化することで、業務の抜け漏れを防ぎます。

具体的な指示を仰ぐ・復唱して確認する

あいまいな指示に困ったときは、一人で抱え込まず、具体的な内容を確認することが最も確実な解決策です。例えば、「『いい感じに』とのことですが、具体的にどのような点を重視すればよろしいでしょうか?」「『なるべく早く』は、本日の17時までという認識でよろしいでしょうか?」など、具体的な言葉に置き換えて質問します。

また、指示を受けたら「承知いたしました。〇〇の件、△△という手順で、□時までに仕上げる、ということでお間違いないでしょうか?」と復唱して確認することで、お互いの認識のズレを防げます。的確な仕事をするための「報・連・相」として、前向きな姿勢と評価されるはずです。

事前に自分の特性と配慮事項を伝える

可能であれば、信頼できる上司や同僚に、事前にご自身の障害特性と、希望する配慮を伝えておく「セルフアドボカシー(自己擁護)」も有効です。単に「〇〇が苦手です」と伝えるだけでなく、「〇〇という特性があるため、△△な状況が苦手です。つきましては、□□のようにご配慮いただけると大変助かります」と、「特性・苦手な状況・具体的な配慮」をセットで伝えましょう。相手が理解し、協力しやすくなります。

【伝え方の例】
「私には、口頭での長い説明を一度に記憶するのが少し難しいという特性があります。お手数ですが、複数のご指示をいただく際には、メモに書き出していただくか、メールでもお送りいただけると大変助かります。」

環境調整を依頼する

感覚過敏などで仕事に集中できない場合は、物理的な環境の調整を依頼することも検討しましょう。事業主には、障害のある従業員が働きやすいよう「合理的配慮」を提供することが法律で求められています。

例えば、以下のような配慮が考えられます。

騒音が気になる場合
パーテーションの設置、イヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンの使用許可

 

光が眩しい場合
窓際の席から移動させてもらう、照明の調整

 

匂いが気になる場合
香りの強い芳香剤などを控えてもらう

 

まずは産業医や人事労務担当者、上司などに相談してみましょう。

広汎性発達障害(PDD)の特性を活かせる仕事・働き方

強みを活かせる仕事の例

悩みの原因となる特性は、見方を変えれば大きな強みになります。自分の特性に合った仕事を選ぶことで、能力を最大限に発揮し、やりがいを持って働くことが可能です。

集中力やこだわりを活かす仕事
データ入力、プログラマー、Webデザイナー、校正・校閲、研究職、精密機器の組み立てなど、正確性や緻密さが求められる業務

 

パターン化された業務が得意な点を活かす仕事
倉庫でのピッキング、図書館の司書、事務職(経理、庶務など)、工場のライン作業など、手順やルールが明確な業務

 

これらはあくまで一例です。大切なのは、ご自身の「好き」や「得意」を自己分析し、それを活かせる環境を探すことです。

障害特性に合わせた働き方を選ぶ

必ずしも一般の正社員という枠にこだわる必要はありません。障害者雇用枠での就労や、柔軟な働き方ができる職場を選ぶことも有効な選択肢です。

障害者雇用枠
企業が障害のある方を対象に行う採用です。障害への理解や配慮(合理的配慮)を得やすく、通院などにも柔軟に対応してもらえるメリットがあります。

 

フレックスタイム制や裁量労働制
日々の業務開始・終了時刻を自分で決められるため、体調の波に合わせたり、通勤ラッシュを避けたりできます。

 

テレワーク(在宅勤務)
対人関係のストレスや、通勤による心身の負担を軽減できます。

 

休職・離職時に利用できる公的サポート

工夫をしても仕事が続けられず、休職や退職に至ることもあるかもしれません。そのような時でも、あなたを支える公的なサポートがありますので、一人で抱え込まないでください。

経済的な支援制度

収入が途絶える不安は、心身の回復の妨げになります。まずは利用できる経済的な支援制度を確認しましょう。

障害年金
病気や障害により、生活や仕事が制限される場合に受給できる公的な年金です。発達障害も対象となり、障害者手帳の有無にかかわらず申請できます。

 

傷病手当金
健康保険の被保険者が、病気やけがで4日以上会社を休み、給与が受けられない場合に、最長1年6ヶ月間、給与のおおむね3分の2が支給されます。

 

失業給付(雇用保険)
会社を退職し、次の仕事を探す間の生活を支える給付金です。障害などの理由で就職が困難な方は、一般の離職者より給付日数が長くなる場合があります。

 

これらの制度には受給要件がありますので、お住まいの市区町村の障害福祉窓口、年金事務所、ハローワーク、加入している健康保険組合などに問い合わせてみましょう。

職場復帰のためのリワーク支援

「リワーク支援」とは、精神的な不調などで休職している方が、職場復帰に向けて心身の状態を整えるためのリハビリテーションプログラムです。医療機関や地域障害者職業センターなどで実施されており、オフィスに近い環境での軽作業やグループワーク、ストレス対処法を学ぶ講座などを通じて、生活リズムを整え、スムーズな復職を目指します。

自分に合った仕事探しを支える支援機関

再就職を目指す際は、一人で活動するのではなく、専門の支援機関を頼ることが成功への近道です。

ハローワーク(公共職業安定所)

全国にある公的な職業紹介機関です。障害のある方向けの「専門援助部門」が設置されており、専門の相談員が、障害特性に配慮した求人の紹介や、応募書類の添削、面接練習など、就職活動全般をサポートしてくれます。

障害者就業・生活支援センター

「なかぽつ」などの愛称で呼ばれる、地域に根差した支援機関です。仕事に関する「就業支援」と、日々の暮らしに関する「生活支援」を一体的に行ってくれるのが特徴で、就職活動だけでなく、金銭管理や体調管理など生活面の悩みも気軽に相談できます。

就労移行支援事業所

一般企業への就職を目指す障害のある方を対象に、最長2年間、就職に必要なスキルを身につけるための訓練や、職場探し、就職後の定着支援などを提供する障害福祉サービスです。自分の障害特性の理解を深め、それに合った働き方を見つけるためのサポートが受けられます。

「働く」選択肢を知る|就労継続支援とは?

一般企業での就労(一般就労)以外にも、障害のある方のための「働く」選択肢があります。その代表が「就労継続支援」です。これは、すぐに一般企業で働くことが難しい方へ、スキルや体調に合わせて働く機会を提供する障害福祉サービスで、「A型」と「B型」の2種類があります。

就労継続支援A型
事業所と雇用契約を結び、給与(最低賃金以上)をもらいながら働きます。週20時間以上の勤務が基本となり、比較的、一般就労に近い働き方です。

 

就労継続支援B型
事業所と雇用契約を結ばずに、比較的簡単な作業を自分のペースで行い、「工賃」を受け取ります。週1日、1日数時間といった短時間からの利用が可能で、まずは働くことに慣れたいという方に適しています。

 

就労移行支援、就労継続支援A型・B型は、それぞれ目的や対象者が異なります。どのサービスが自分に合っているか、お住まいの市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所に相談してみましょう。

自分のペースで働くなら就労継続支援B型事業所オリーブへ

ここまで、仕事の悩みへの対処法や様々な支援についてご紹介しました。しかし、「一般企業で働くこと自体が、今の自分にはプレッシャーに感じる」「まずは安心して、自分のペースを大切にできる場所から始めたい」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。

もしあなたがそう感じているなら、 就労継続支援B型事業所オリーブ という選択肢をぜひご検討ください。

オリーブは、雇用契約を結ばず、一人ひとりの体調や希望に合わせて、週に1日、1日2時間といった短時間からでも無理なく利用できる事業所です。軽作業やPC作業などを通じて、働くことの楽しさや自信を少しずつ取り戻しながら、穏やかに社会とのつながりを再構築していくことができます。

一般就労だけが「働く」ということのすべてではありません。あなたらしく輝ける場所は、きっとあります。関西エリア(大阪、兵庫、京都、奈良)で自分に合った仕事のペースを見つけたいとお考えなら、ぜひ一度、オリーブに見学・相談にお越しください。

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