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失語症とは?主な症状のタイプや原因・リハビリについて解説

ある日突然、「言いたい言葉が出てこない」「相手の話が理解できない」といった症状に襲われる—それが「失語症」です。失語症は、脳卒中や事故などが原因で、それまで問題なく使えていた「話す、聞く、読む、書く」といった言葉の機能が障害される状態を指します。

決して、知的な能力や記憶力が低下したり、その人の人格が変わってしまったりするわけではありません。頭の中には伝えたいことがあるのに、それを言葉としてうまく操れなくなる、非常にもどかしく、つらい障害です。

この記事では、失語症の基本的な知識から、症状による種類の違い、原因、そして回復に向けたリハビリテーションについて詳しく解説します。さらに、失語症の方が仕事に復帰する際に活用できる支援制度や相談窓口についてもご紹介します。ご本人やご家族が正しい知識を持ち、前向きに次の一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。

失語症とは?話す・聞く・読む・書くが難しくなる障害

失語症は、後天的な脳の損傷によって、一度獲得された言語機能が障害される状態です。具体的には、「話す(表出)」「聞く(理解)」「読む(読解)」「書く(書字)」という、言語に関する4つの能力すべてに何らかの困難が生じます。ここで非常に重要なのは、失語症は思考力や判断力、記憶力といった知的能力そのものの障害ではないという点です。ご本人の知識や経験、人格は以前のまま保たれています。例えるなら、頭の中には考えや感情がたくさん詰まっているのに、それを取り出すための「言葉」という道具がうまく使えなくなってしまった状態、とイメージすると分かりやすいかもしれません。

そのため、周囲の人が「わからなくなってしまった」と誤解し、子供扱いするような接し方をすると、ご本人を深く傷つけてしまう可能性があります。失語症は「言葉の障害」であるという正しい理解が、ご本人とのコミュニケーションの第一歩となります。

失語症の原因は脳卒中などの脳の損傷

失語症が起こる直接的な原因は、大脳の「言語野(げんごや)」と呼ばれる、言葉を司る領域が損傷を受けることです。右利きの人のほとんどは、左脳に言語野が存在するため、左脳が損傷されると失語症を発症する可能性が高くなります。この損傷を引き起こす最も一般的な原因は、以下の通りです。

脳卒中
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血といった脳血管の病気です。失語症の原因の約9割を占めるともいわれています。

 

頭部外傷
交通事故や転落事故などにより、脳が物理的なダメージを受けることで発症します。

 

脳腫瘍
脳にできた腫瘍が言語野を圧迫したり、損傷したりすることで起こります。

 

その他
脳炎やアルツハイマー型認知症などの変性疾患が原因となることもあります。

 

構音障害やストレスによる失声症との違い

失語症は、言葉や声に関する他の障害と混同されがちです。しかし、原因も症状も異なるため、正しく区別して理解することが大切です。

障害名 主な原因 障害の中心 特徴
失語症 脳の言語野の損傷(脳卒中など) 言語機能(話す・聞く・読む・書く) 言葉のシステムそのものの障害。知的能力は保たれていることが多い。
構音障害 発声発語器官(唇、舌、声帯など)の麻痺 発音・発声(ろれつが回らない) 言葉の理解や読み書き、文法的な能力は保たれている。「らりるれろ」が言いにくいなど。
失声症(心因性失声) 強い心理的ストレスや精神的ショック 声を出すこと(声が出なくなる) 筆談やジェスチャーは可能。言語機能自体は正常で、ささやき声なら出せる場合もある。
認知症に伴う言語障害 脳の変性疾患など 記憶、見当識など認知機能全般 記憶障害など、認知機能全体の低下の一部として言葉の障害が現れる。物の名前が思い出せないなど。

特に「構音障害」は、失語症と合併して起こることも多くありますが、「言葉を組み立てる能力」の障害(失語症)と、「言葉を発音する能力」の障害(構音障害)という点で異なります。

失語症の主な種類と症状

失語症は、損傷を受けた脳の部位によって、症状の現れ方が異なります。そのため、いくつかのタイプに分類されます。代表的なタイプの特徴は以下の通りです。

タイプ 発話の流暢さ 言語理解 復唱 主な特徴
ブローカ失語 非流暢(努力性、たどたどしい) 比較的良好 困難 言葉が出にくいが、相手の話はある程度理解できる。
ウェルニッケ失語 流暢だが意味不明瞭(ジャルゴン) 困難 困難 よく話すが、話している内容や相手の話を理解するのが難しい。
伝導失語 比較的流暢(言い間違いが多い) 良好 特に困難 理解も発話もできるが、聞いた言葉を繰り返すこと(復唱)が著しく苦手。
全失語 ほとんどない 重度に困難 困難 話す・聞く・読む・書く、すべての言語機能が著しく障害される最も重いタイプ。
失名詞失語 流暢(物の名前が出にくい) 良好 良好 物の名前が出てこない(喚語困難)が主な症状の軽いタイプ。

 

ブローカ失語(運動性失語):言葉が出にくい

ブローカ失語は、主に脳の前方にある「ブローカ野」の損傷で起こります。言いたいことは頭に浮かんでいるのに、いざ話そうとすると言葉が詰まったり、途切れ途切れになったりします。「て・に・を・は」などの助詞が抜け落ち、単語を並べただけの話し方(電文体)になることもあります。相手の話していることは比較的よく理解できるため、自分がうまく話せないことにもどかしさを感じ、苦痛を伴うことが多いです。

ウェルニッケ失語(感覚性失語):言葉の理解が難しい

ウェルニッケ失語は、脳の後方にある「ウェルニッケ野」の損傷で起こります。言葉は滑らかによどみなく話しますが、内容が支離滅裂であったり、意味をなさない言葉(ジャルゴン)が混じったりします。言い間違い(錯語)も多く見られます。相手が話している言葉の意味を理解することが非常に困難で、自分がうまく話せていないという自覚(病識)がないことが多いです。

その他のタイプ(伝導失語・全失語・失名詞失語)

伝導失語
相手の言うことを理解し、自発的に話すことは比較的できるのに、聞いた言葉をそのまま繰り返すこと(復唱)だけが極端に苦手です。

 

全失語
「話す」「聞く」「読む」「書く」という4つの側面すべてが、極めて著しく障害される、最も重いタイプの失語症です。

 

失名詞失語
物の名前が出てこない(喚語困難)ことが主な症状の、比較的軽いタイプの失語症です。

 

失語症の治療とリハビリ

脳の損傷自体を元に戻す根本的な治療法は現在のところありませんが、リハビリテーションによって、残された能力を最大限に引き出し、コミュニケーション能力を改善することは十分に可能です。

言語聴覚士による専門的なリハビリ

失語症のリハビリは、言葉とコミュニケーションの専門家である「言語聴覚士(ST)」が中心となって行います。言語聴覚士は、詳しい検査を通して一人ひとりの状態を正確に評価し、完全オーダーメイドのリハビリプログラムを立案・実施します。訓練内容には、単語訓練、構文訓練、読解訓練、書字訓練のほか、実際の生活場面を想定した会話練習などがあります。また、ジェスチャーや描画など、言葉以外の伝達手段(代替コミュニケーション)を活用する練習も行います。

家族や周囲ができるコミュニケーションの工夫

専門家によるリハビリと並行して、ご家族や周囲の方々が日常生活の中でコミュニケーションの工夫をすることも、ご本人の回復を力強く後押しします。失語症の方は、うまくコミュニケーションが取れないことから社会的に孤立し、抑うつ的になりやすい傾向があります。ご本人の「伝えたい」という気持ちを尊重し、焦らずに見守る姿勢が、ご本人の意欲を引き出し、心の安定につながります。

    • 静かな環境で、1対1で話す
    • 本人の注意を引いてから話す
    • ゆっくり、はっきり、短い文で話す
    • ジェスチャーや実物、写真などを活用する
    • 「はい/いいえ」で答えられる質問をする
    • 本人が話すのを辛抱強く待つ
    • 分かったふりをしない
    • 一つの話題に絞って話す
    • 文字や絵を描いて伝える
    • 大人として対等に接する

 

失語症の方が仕事で活用できる支援制度と合理的配慮

リハビリを経て、職場復帰や新たな就職を目指す失語症の方も多くいらっしゃいます。適切な配慮や支援制度を活用することで、能力を発揮して働くことは十分に可能です。

適した仕事の特徴

失語症の症状は個人差が大きいため、「この仕事が向いている」と一概には言えませんが、一般的に以下のような特徴を持つ仕事は、困難を感じにくい傾向があります。

コミュニケーションの負担が少ない仕事
口頭でのやり取りが少なく、一人で黙々と進められる業務。

 

自分のペースで進められる仕事
時間的なプレッシャーが少なく、焦らずに取り組める業務。

 

視覚的な情報が中心の仕事
マニュアルや図面など、見て理解できる情報が多い業務。

 

手順が明確な定型業務
作業の流れが決まっており、臨機応変な対応が少ない業務。(例:データ入力、軽作業、清掃、倉庫内作業、CADオペレーターなど)

 

職場に求める合理的配慮の例

職場での困難を軽減するため、会社側に「合理的配慮」を求めることができます。

指示・伝達方法の工夫
口頭での指示だけでなく、メールやチャット、メモ、図など、視覚的な情報で補足してもらう。一度に多くの指示をせず、一つずつ簡潔に伝えてもらう。

 

業務内容の調整
電話応対など、リアルタイムでの高度な言語理解が求められる業務を免除または軽減してもらう。自分のペースで進められる業務を担当させてもらう。

 

環境の整備
周囲の話し声や雑音が少ない、静かで集中しやすい座席にしてもらう。

 

ジョブコーチやトライアル雇用

ジョブコーチ(職場適応援助者)
専門家が職場に訪問し、ご本人と会社の双方を支援します。仕事の進め方や同僚とのコミュニケーションについて具体的なアドバイスを行ったり、会社側に効果的な関わり方を助言したりします。

 

トライアル雇用
企業が原則3ヶ月間、試行的に雇用する制度です。ご本人は仕事や職場環境との相性を見極め、企業側は能力や適性を理解した上で本格雇用を判断できます。

 

失語症の悩みや仕事について相談できる窓口

失語症に関する悩みや、就労についての不安は、ご本人やご家族だけで抱え込まずに、専門の相談窓口を活用しましょう。

高次脳機能障害相談窓口
失語症は「高次脳機能障害」の一つに分類されるため、各都道府県や指定都市に設置されている拠点機関で、医療、福祉、就労など幅広い相談ができます。

 

地域の保健センター
市区町村が運営する身近な健康相談の窓口です。

 

就労移行支援・就労継続支援事業所
障害のある方の「働きたい」という気持ちを専門的にサポートする福祉サービスです。就労移行支援は一般企業への就職を、就労継続支援は支援を受けながら働くことを目指します。

 

失語症と向き合いながら働きたいあなたへ 就労継続支援B型事業所オリーブ

「病気の後、働くことに自信が持てない」「コミュニケーションに不安があって、すぐに一般企業で働くのは怖い」。もしあなたがそのように感じているなら、私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」で、新しい一歩を踏み出してみませんか?

オリーブでは、失語症をはじめ、様々な障害のある方が、ご自身の体調やペースに合わせて軽作業などのお仕事に取り組んでいます。言葉でのコミュニケーションに不安があっても、スタッフが丁寧にサポートしますので、安心して作業に集中できる環境です。ここで働くことを通じて、生活リズムを整え、働くことへの自信を取り戻し、社会とのつながりを再び感じることができます。あなたらしい働き方を、私たちと一緒に探していきましょう。

見学やご相談はいつでも大歓迎です。まずはお気軽にご連絡ください。

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