【等級別】療育手帳(愛の手帳)で受けられるサービスは?A判定・B判定の違いとメリットを解説

「療育手帳」という言葉を聞いたことがありますか?知的障害のある方やそのご家族が、様々なサポートを受けるために非常に重要な手帳で、お住まいの地域によっては「愛の手帳」という名称で親しまれているかもしれません。
しかし、「どんなサービスが受けられるの?」「等級のA判定とB判定では、具体的に何が違うの?」「申請にはどんな準備が必要で、どれくらい時間がかかるの?」といった具体的な内容については、意外と知られていないことも多いのではないでしょうか。手帳を持つことで生活がどう変わるのか、不安に思うこともあるかもしれません。
この記事では、療育手帳の基本的な知識から、A判定・B判定といった等級の違い、そして手帳を持つことで得られる具体的なメリットやサービス内容について、深く掘り下げて分かりやすく解説します。また、申請や更新の手続きについても詳しく説明しますので、これから手帳の取得を考えている方も、すでにお持ちの方も、ご自身の権利と利用できるサポートを最大限に活用するため、ぜひ参考にしてください。
療育手帳(愛の手帳)とは?
知的障害のある方の一貫した支援を行うための証明書
療育手帳とは、知的障害があると判定された方が、乳幼児期から学齢期、成人期、そして高齢期に至るまで、ライフステージを通じて一貫した指導や相談を受け、様々な福祉サービスを利用しやすくするための証明書です。
この「一貫した支援」というのが大きなポイントです。例えば、学校、福祉施設、医療機関、そして就職先の企業など、関わる支援機関が変わっても、この手帳があることで「その人がどのような特性を持ち、どのようなサポートを必要としているか」という共通の理解が生まれ、切れ目のない支援を受けやすくなります。
療育手帳制度は、身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳と異なり、「療育手帳制度について」という厚生労働省の通知に基づいて、各自治体が主体となって要綱を定めて運営しています。そのため、受けられるサービス内容や等級の区分が、お住まいの地域によって異なる場合がある点に注意が必要です。
自治体によって名称が異なる「愛の手帳」「みどりの手帳」など
「療育手帳」という名称は国の通知で用いられているものですが、自治体によっては独自の愛称で呼ばれています。最も有名なのが東京都の「愛の手帳」です。その他にも、以下のような例があります。
- さいたま市
- 「みどりの手帳」
- 名古屋市
- 「愛護手帳」
- 青森県
- 「愛護手帳(療育手帳)」
- 横浜市
- 「横浜市療育手帳」
このように名称は様々ですが、その役割や法的な位置づけは基本的に同じです。
療育手帳の対象者と発達障害との関連
療育手帳の交付対象は、児童相談所または知的障害者更生相談所において、知的障害があると判定された方です。
知的障害(知的発達症)とは?
知的障害とは、医学的には「知的発達症」と呼ばれ、以下の3つの要素を満たす場合に診断されます。
- 知的機能の制約
- 学習、推論、問題解決といった知的機能に明らかな制約があること(知能指数IQがおおむね70〜75以下が目安)。
- 適応行動の制約
- 社会生活を送る上で求められる、概念的スキル(読み書き、金銭管理など)、社会的スキル(対人関係、ルール理解など)、実用的スキル(身辺自立、公共交通機関の利用など)に困難があること。
- 発達期に生じること
- これらの制約が、発達期(おおむね18歳まで)に生じていること。
発達障害との関連
発達障害のある方の中には、上記の知的障害を併せ持つ方も少なくありません。その場合は、療育手帳の交付対象となります。知的障害を伴わない発達障害(ASD、ADHDなど)の場合は、療育手帳ではなく「精神障害者保健福祉手帳」の対象となるのが一般的です。ただし、兵庫県のように、知的障害を伴わない発達障害の方も療育手帳の交付対象としている自治体もあります。
療育手帳の等級(A判定・B判定)と認定基準
等級の判定方法と基準
療育手帳の等級は、知能指数(IQ)と、日常生活における介助の必要性の度合い(食事、排泄、金銭管理、コミュニケーションなど)を総合的に評価して判定されます。国のガイドラインでは、障害の程度は重度「A」とそれ以外(中度・軽度)「B」に区分されています。
判定は、児童相談所(18歳未満)または知的障害者更生相談所(18歳以上)で、専門の職員による知能検査や発達検査、本人や家族からの詳しい聞き取りを通じて行われます。
重度「A」の認定基準
国の示すガイドラインでは、重度「A」は「最重度」と「重度」を合わせた区分で、以下のような方が対象となります。
- 知能指数(IQ)がおおむね35以下の方で、食事、着替え、排泄、洗面などの日常生活において、ほとんど常時、何らかの介助を必要とする状態。または、異食(食べ物でないものを口にする)、自傷・他害行為などの危険な行動があり、常時注意や見守りが必要な状態。
- 知能指数(IQ)がおおむね50以下で、かつ視覚障害や聴覚障害、肢体不自由などを合併しており、日常生活で著しい困難を抱えている方。
つまり、「知能指数が低い」ことに加え、「生命の維持や安全確保のために、日常生活での手厚いサポートが常に必要」な状態が、重度と判定される大きな目安となります。
中度・軽度「B」(B1・B2)の認定基準
重度「A」の基準に当てはまらない方が、中度・軽度「B」と判定されます。さらに、自治体によっては、この「B」を、より細かい区分に分けている場合があります。例えば、大阪府や兵庫県など多くの自治体では、中度の「B1」と軽度の「B2」に分けられています。
- 中度「B1」の目安
- 知能指数(IQ)がおおむね36〜50程度の方。身の回りのことはある程度できても、金銭管理や公共交通機関の単独利用、計画的な行動など、複雑な社会生活を営むには援助が必要な状態。
- 軽度「B2」の目安
- 知能指数(IQ)がおおむね51〜75程度の方。日常会話は問題なくでき、身辺自立もしているが、抽象的な概念の理解や、複雑な事務手続き、対人関係の機微の理解などに困難があり、仕事や生活で部分的な支援が必要な状態。
【等級別】療育手帳で受けられるメリット・福祉サービス一覧
税金の控除や公共料金などの割引
税金の控除・減免
本人または生計を同じくする家族が、所得税や住民税の「障害者控除」を受けることができます。等級によって控除額が異なり、家計の負担を軽減できます。
障害の区分 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
---|---|---|
特別障害者 (重度「A」など) | 40万円 | 30万円 |
普通障害者 (中度・軽度「B」など) | 27万円 | 26万円 |
※2025年7月現在の情報です。このほか、同居している場合は「同居特別障害者」として所得税の控除額が75万円に増額されるなど、条件によって控除額はさらに大きくなります。相続税や贈与税、自動車税などにも優遇措置があります。
公共料金・交通機関などの割引
- 公共交通機関
- JR、私鉄、バスなどの運賃が5割引になります。特に重度「A」など第1種と判定された方は、付き添いの介護者1名も割引の対象となるため、行動範囲が大きく広がります。
- 公共料金
- NHK受信料が全額または半額免除になる制度や、ドコモ、au、ソフトバンクといった大手携帯電話会社の障害者割引サービスなどを利用できます。
- その他
- 映画館の入場料割引や、高速道路の通行料金割引(要事前登録)など、生活を豊かにする様々な割引があります。
障害者雇用枠での就職や就労支援サービスの利用
障害者雇用枠と合理的配慮
一般の採用枠とは別に、障害のある方を対象とした「障害者雇用枠」に応募できます。障害者雇用では、企業側から法律に基づいた「合理的配慮」を受けながら働けるのが最大のメリットです。合理的配慮とは、働きづらさを解消するための個別の調整や工夫のことです。
- 業務手順を写真や図で分かりやすくマニュアル化してもらう
- 指示は一度に一つずつ、具体的に伝えてもらう
- 困った時に相談する担当者を一人に決めてもらう
- 疲れやすい特性に合わせ、こまめに休憩を取れるようにしてもらう
ライフステージに合わせた就労支援サービス
療育手帳があると、以下のような公的な就労支援サービスを利用できます。
- 就労移行支援
- 一般企業への就職を目指す方のための「就職準備スクール」のようなサービスです。ビジネスマナーやPCスキル、コミュニケーションスキルの向上、自己分析、職場見学など、就職に必要な準備を原則2年間、体系的に行います。
- 就労継続支援(A型・B型)
- すぐに一般企業で働くのが難しい場合に、支援を受けながら働き、工賃(給料)を得ることができるサービスです。A型は雇用契約を結び、B型は雇用契約を結ばずに体調に合わせて利用するなど、働き方が異なります。
その他の福祉サービス(手当・医療費助成など)
- 各種手当
- 国の制度である「特別児童扶養手当」(20歳未満の障害児を養育する保護者対象)や「障害児福祉手当」(20歳未満で常時介護が必要な重度障害児対象)、「特別障害者手当」(20歳以上で常時介護が必要な重度障害者対象)の受給要件に該当する場合があります。これらは等級によって支給額や対象が異なり、重度「A」の方が手厚くなります。
- 医療費助成
- 健康保険が適用される医療費の自己負担分を助成する制度(障害者医療費助成制度など)を利用できます。助成の内容や所得制限の有無は、自治体によって大きく異なります。
- その他
- 補装具(車椅子など)の交付や日常生活用具(特殊寝台など)の給付、公営住宅への優先入居、ホームヘルプサービス(居宅介護)の利用など、生活を支える様々な制度があります。
療育手帳の申請・更新の手続きとポイント
申請から交付までの基本的な流れ
- 市区町村の窓口へ相談まず、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に「療育手帳の申請をしたい」と相談し、手続きについて説明を受けます。
- 判定の予約・実施窓口の案内に従い、判定の予約をします。18歳未満の方は児童相談所、18歳以上の方は知的障害者更生相談所で判定を受けます。判定では、心理士などの専門家が知能検査(WISCやWAISなど)や発達検査を行うほか、本人や家族から、生育歴や現在の生活の様子について詳しい聞き取りが行われます。
- 審査・交付判定結果に基づき、自治体で手帳交付の審査が行われます。交付が決定すると、自宅に通知が届き、後日窓口で手帳を受け取ります。申請から交付までは、1ヶ月〜2ヶ月以上かかる場合もあります。
申請・判定時のポイント
申請に必要なもの
申請の際には、一般的に以下のものが必要ですが、自治体によって異なるため、事前に必ず確認しましょう。
- 療育手帳交付申請書(窓口で受け取ります)
- 本人の顔写真(縦4cm×横3cmが一般的)
- 印鑑
- マイナンバーがわかるもの(マイナンバーカードなど)
- (場合によって)母子健康手帳、生育歴がわかる資料、かかりつけ医の診断書、お薬手帳など
判定で大切なこと
判定面談では、ありのままを正直に話すことが大切です。日常生活で困っていること、苦手なこと、必要なサポートについて具体的に伝えることで、その人に合った適切な等級の判定、ひいては適切な支援につながります。発達検査や知能検査は、能力の優劣を測るためではなく、本人の得意なこと・苦手なことを客観的に理解し、適切な支援方法を見つけるための大切な手がかりです。普段の様子を知る家族が付き添い、事前に伝えたいことをメモにまとめておくと、落ち着いて正確に状況を説明できます。
定期的な更新(再判定)について
療育手帳には有効期限があり、定期的な更新(再判定)が必要です。更新時期は、3歳、6歳、12歳、18歳といった年齢の節目や、数年ごとなど、障害の状況や年齢に応じて個別に設定され、手帳に記載されています。更新時期が近づくと自治体から通知が来ることが多いですが、万が一忘れてしまうと各種サービスが利用できなくなる可能性があるため、ご自身でしっかり管理することが大切です。
手帳を持つデメリットと、その乗り越え方
療育手帳を持つことによる、制度上のデメリットは基本的にありません。手帳の所持を自分から伝える必要はなく、サービスを利用するかどうかも本人の自由です。
ただし、申請や更新の手続きに手間や時間がかかることや、手帳を取得することで、本人や家族が「障害」という現実と改めて向き合うことになり、心理的な負担を感じる場合があるかもしれません。しかし、それは本人の特性を正しく理解し、適切な支援を受けながらその人らしい人生を歩むための、大切な「自己理解」と「権利擁護」の第一歩と捉えることもできます。
不安な気持ちは、一人で抱え込まず、市区町村の窓口や、地域の「相談支援事業所」に相談してみましょう。相談支援事業所は、福祉サービスを利用するための計画書(サービス等利用計画)を作成してくれる、地域生活の頼れるパートナーです。
手帳取得を機に自分らしい働き方を 就労継続支援B型事業所オリーブで
療育手帳の取得はゴールではなく、その人らしい人生を送るための様々な選択肢を得るための「スタート」です。特に「働く」ということについて考えた時、手帳があることで、自分に合ったサポートを受けながら、社会の一員として活躍できる道が大きく広がります。
「障害者雇用枠に興味はあるけれど、すぐに企業で働くのは不安」「まずは自分のペースで働くことに慣れるところから始めたい」と感じている方は、就労継続支援B型事業所オリーブで、働く準備を始めてみませんか。
オリーブでは、療育手帳をお持ちの方々が、それぞれの得意なことやペースを大切にしながら、データ入力や軽作業、創作活動などの仕事に取り組んでいます。雇用契約を結ばないため、週1日・短時間からでも利用でき、安定した生活リズムを作りながら、働くことへの自信と喜びを育んでいくことができます。手帳の取得を機に、ご自身の新しい可能性を探したい方は、ぜひ一度、お近くのオリーブへ見学・相談にお越しください。専門の支援員が、あなたらしい働き方を一緒に考えます。